2010年4月25日日曜日

LC1004a 原告訴状(条例)

訴状

平成22年4月21日

東京地方裁判所 御中

原告ら訴訟代理人

弁 護 士   日置 雅晴
同       富田 裕
同       花澤 俊之

原 告    A

原 告    B

原 告    C

原告ら訴訟代理人弁護士  日置 雅晴
同             富田 裕
原告ら訴訟代理人弁護士  花澤 俊之

被 告(処分庁)   中野区
代表者区長      田中大輔

地区計画条例取消請求事件
訴訟物の価額   480万円
貼用印紙額   2万9000円

請求の趣旨

1 被告が制定した中野区中野四丁目地区における建築物の制限に関する条例(平成21年第32号)を取り消す

2 訴訟費用は被告の負担とする

との判決を求める。

請求原因

第1 本件訴訟に至る経緯

(1) 訴外東京都による本件変更地区計画決定

 訴外東京都は,別紙1記載のとおり,平成21年6月22日付けで東京都中野区中野四丁目地区を対象区域とした東京都市計画地区計画決定(東京都告示第954号。別紙1。以下,「本件変更地区計画」という。)を決定・告示した。

(2) 本件変更地区計画に法的効力を持たせる本件地区計画条例の制定

 その後,被告中野区は,平成21年10月23日,この本件変更地区計画の内容のうちの建築物の用途,構造及び敷地に関する制限を条例で定める(建築基準法68条の2第1項)ことで,これらの制限を建築基準法6条の「建築基準関係規定」とし,これらの規制を建築確認の対象とした(平成21年中野区条例第32号。別紙2。以下,「地区計画条例」という。)。すなわち,本件変更地区計画では,本件変更地区計画の区域内の容積率,敷地の最低限度,外壁の後退等の建築物の用途,構造,及び敷地に関する制限の定めを設けているが,地区計画の中でこれらの定めがなされるだけでは,区域内の土地所有者に対し,これらの建築制限を義務付けるものではない。

 しかし,本件変更地区計画の定めのうちのこれらの建築制限の定めを本件条例の中で定めると,これらの規制は,建築基準法6条の「建築基準関係規定」の内容となり,建築確認の対象となることになる。

 そして,これらの建築規制の定めが建築確認の対象となった場合,これらの規制に反する建築行為を行うことができなくなるから,本件条例が制定された段階で,地区計画の区域内の土地所有者に対し,建築行為を制限する具体的拘束力が生ずることになる。

 そうだとすると,本件地区計画条例は,本件変更地区計画に法的拘束力を与えるものである。

(3) 原告らによる本件変更地区計画決定取消訴訟の提起

 原告らは,本件変更地区計画の定める中野区中野四丁目地区の西側に隣接して居住する者であるが,平成21年7月16日,本件変更地区計画決定を行った訴外東京都に対し,本件変更地区計画決定において,原告らの住居と本件変更地区計画の区域との間に,「まちづくりガイドライン2007」(甲1)に記載される原告らの住環境に配慮した緩衝帯型オープンスペースが設けられなかったことを理由に本件変更地区計画決定の違法を主張し,本件地区計画決定取消訴訟を提起した。原告らは,現在,本件変更地区計画決定の違法性について,東京地方裁判所で係争中である(平成21年(行ウ)第354号都市計画地区計画決定取消請求事件。以下,「本件地区計画取消訴訟」という。)。

 しかし,本件地区計画取消訴訟において,本件地区計画取消訴訟の被告東京都から,本件変更地区計画の処分性に関し,地区計画は条例が制定されてはじめて法的拘束力が生じるものであって,地区計画そのものには法的拘束力がないので処分性がないとの主張がなされているところである。

(4) 本件訴訟の提起

 仮に,本件地区計画取消訴訟の被告東京都の主張の通り本件変更地区計画自体には処分性がなく,抗告訴訟で争うことが不可能であるとしても,本件変更地区計画を前提とした本件地区計画条例には法的拘束力があるから処分性がある。

 そして,本件変更地区計画が違法である以上,本件地区計画条例を前提とし,本件変更地区計画と同じ内容を定める本件地区計画条例も違法である。
そこで,原告らは,本件変更地区計画の違法を理由に,本件変更地区計画を前提とする本件地区計画条例の取消を求め,本件訴訟を提起したものである。

第2 当事者

1 原告ら

(1)原告Aは,甲(第一種低層住居専用地域)に居住しており,本件地区計画条例の定める中野区中野四丁目地区と,区画道路を挟んで隣接居住している者である。

(2)原告Bは,乙(第一種低層住居専用地域)に居住しており,本件地区計画条例の定める区域である中野区中野四丁目地区と,区画道路を挟んで隣接居住している者である。

(3)原告Cは,丙(第一種低層住居専用地域)に居住しており,本件地区計画条例の定める区域である中野区中野四丁目地区と,区画道路を挟んで隣接居住している者である。

(4)なお別紙3の地図上に,上記原告3人の居住地を記載した。

2 被告

 被告中野区は,平成21年10月23日付で本件地区計画条例を制定・告示した者である。

第3 本件地区計画条例の処分性

1 本件地区計画条例の処分性

 本件地区計画条例の制定行為は,以下からすると,特定個人の権利義務に直接的変動を及ぼす具体的な制約であり,抗告訴訟の対象となる行政処分である。

(1) 特定の敷地の三つの特定の土地所有者に対する条例の制定であること

 本件地区計画条例の適用区域は,東京都市計画地区計画中野四丁目地区地区計画(平成21年東京都告示第954号)の区域のうち,区域1-1,1-2,4,5の四つの区域である(本件地区計画条例3条参照)。

 そして,この四つの区域は,以下のように,それぞれ一つの土地所有者が所有する一敷地又は一団の土地である。

1-1区域は,学校法人明治大学が所有する。

1-2区域は,学校法人帝京平成大学が所有する。

4区域は,中野駅前開発特定目的会社が所有する。

5区域は,中野駅前開発特定目的会社が所有する。

(2) これらの特定所有者に対し,具体的な規制を行っていること

 本件地区計画条例は,本件変更地区計画の区域において,建築物の敷地・構造・用途に関する事項で本件変更地区計画の内容として定められたものを建築確認の対象として規制するものであり(建築基準法68条の2第1項参照),(1)で述べた特定の土地所有者に対し,具体的な規制を行うものである。

 以下,説明する。

ア 本件地区計画条例に基づく規制

 これらの区域の容積率は,もともと200%であったが,本件変更地区計画により,容積率は,区域1-1,区域1-2で350%,区域4,区域5で560%と定められ,本件地区計画条例でも同じ定めがなされた(本件地区計画条例5条)。

 次に,これらの区域の敷地面積の最低限度は,もともと60㎡で定められていたが,本件変更地区計画により,敷地面積の最低限度は,1-1区域,1-2区域で,1.0ヘクタール,4区域で0.4ヘクタール,5区域で1.5ヘクタールと定められ,本件地区計画条例でも同じ定めがなされた(本件地区計画条例6条)。

 そして,これらの区域では,もともと壁面位置の制限に関する規制がなかったが,本件変更地区計画により,壁面位置に関して,本件変更地区計画に記載される壁面位置の制限が定められ,本件地区計画条例でも同じ定めがなされた(本件地区計画条例7条)。

 さらに,これらの地域では,もともと建築物の高さの最高限度の定めはなかったが,本件変更地区計画により区域1-1で70メートル,区域1-2,及び区域4で55メートル,区域5で110メートルの最高限度が定められ,本件地区計画条例でも同じ定めがなされた(本件地区計画条例8条)。

 これらの内容は,地区計画制定前の建築規制と比較すると,一部において規制強化,一部において規制緩和となるものであり,本条例はそれらを一体として適用するものである。

イ これらの具体的建築規制は,法的拘束力を有すること

 被告が制定した本件地区計画条例は,建築基準法68条の2第1項に基づく条例であるから,建築基準法6条1項の定める建築基準関係規定となる。 
そこで,アで述べた内容をはじめとする本件地区計画条例による建築物の用途,構造及び敷地に関するその制限は,建築基準法6条1項の定める建築確認の対象となる。

 したがって,1-1区域,1-2区域,4区域,5区域の土地所有者は,本件地区計画条例に反した建築確認を取得し,本件地区計画条例に反した建築物の建築をできないとともに,条例制定前に比較して緩和された容積率等に基づく建築が可能となる。

 これは,1-1区域,1-2区域,4区域,5区域を所有する,学校法人明治大学,学校法人帝京平成大学,中野駅前開発特定目的会社に対する具体的な権利制限・規制緩和である。

 さらに,本件地区計画条例11条では,建築主に対し,本件地区計画条例に違反した場合に罰金という行政罰を定めている点でも具体的な権利制限である。

 そうすると,本件変更地区計画の内容は,本件地区計画条例が制定されることで特定の個人に対する法的拘束力を取得したものということができる。

(3) まとめ

 以上より,本件地区計画条例の制定は,特定個人の権利義務に直接的変動を及ぼす具体的な制約であり,抗告訴訟の対象となる行政処分である。

 2 建築確認以前において本件地区計画条例の違法性を争わせる必要があること。

 建築確認の段階で,民間確認機関に本件地区計画条例の違法性(裁量逸脱性)を審査させることを求めるのは,著しく困難である。すなわち,建築確認取消の審査請求においては,本地区計画区域内だけ特別に緩和された建物高さ,容積率等は,所与の前提として扱われ,当該建物が緩和された容積率,建物高さに適合しているか否かにより適法違法の審査が行われるのみである。
したがって,原告らが問題としている地区計画に緩衝帯型オープンスペースが存在していないという違法性は,建築確認取消争訟では,所与の前提として扱われ,この違法性を争うことはできない。

 また,建築確認の取消訴訟は,民間確認機関の行う建築確認を争うことになるが,民間の建築確認機関は,単なる一営利企業たる株式会社であり,原告らが争う本件条例,本件変更地区計画の策定に何の関与もしていないし,これらについての資料を何も持ち合わせていない。

 そこで,仮に,原告らが建築確認取消訴訟を提起しても,何ら実質的な主張,反論を期待できないという点で紛争解決を期待できない。

3 まとめ

 以上のことから,本件地区計画条例は,特定個人の権利義務に直接的変動を及ぼす具体的な制約といってよいだけではなく,さらに建築確認の段階以前において,地区計画の違法性を争わせる必要が認められる。故に,本件変更地区計画条例には処分性が肯定されなければならない。

第4 本件地区計画条例取消訴訟の原告適格

 本件地区計画条例取消訴訟は,本件地区計画条例の前提である本件変更地区計画決定の違法を理由とするものである。

 そこで,本件訴訟の原告適格は,本件変更地区計画決定の違法性を主張しうる原告適格者の範囲により定まる。

 そして,原告らは,以下の通り,本件変更地区計画決定の違法を主張する原告適格を有しているので,本件地区計画条例取消訴訟の原告適格を有する。

1(1)本件変更地区計画区域は,原告らが区画道路を挟んで隣接する部分において再開発等促進区でもある。

 そして,都市計画法第13条第1項14号ロによると,再開発等促進区を定める地区計画を定める場合は,「第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域については,再開発等促進区の周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」と規定されており,地区計画対象地周辺の低層住宅を所有・居住する者に対して,「良好な住居の環境」の利益を保護すべきとされている。

 ここで,他の地区計画と異なり再開発等促進区を定める地区計画に限り,都市計画法が「周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」という規定を置いた趣旨は,再開発等促進区を定める地区計画は,建築物の容積率を緩和することで,特別に高容積の高層建築の建築を可能にする地区計画であるから,必然的に周辺の低層住宅における日照その他の環境悪化が見込まれ,そうであるからこそ,それに対する特別の手当を地区計画の中で設けることを規定したものと解される。

(2)ここで注意すべきは,上記「良好な住居の環境」は,第一種低層住居専用地域の場合に保護される利益である「低層住宅に係る良好な住居の環境」(都市計画法第9条第1項)の意義とは異なる(都市計画法第13条第1項14号ロの「良好な住居の環境」は,専ら一般的な公益の中に吸収解消されず,個々人の個別的利益として保護すべきである。),という点である。

 すなわち,第一種低層住居専用地域における「良好な住居の環境」(都市計画法第9条第1項)は,「地域」という広がりを持つ性質に照らし,あくまで一般的公益といわざるを得ないが,都市計画法第13条第1項14号ロにおいて考慮されるべき「周辺の低層住宅」は,地区計画の影響を直接に受ける客体であることが想定されており,あくまで限定された客体であるため,ここで保護されるべき「良好な住居の環境」は,一般的公益の保護実現を目的として機能することによる反射的利益を超え,もはや個々人の個別的利益と解すべきである。

(3)以上のことから,再開発等促進区の周辺の第一種ないし第二種低層住宅に係る「良好な住居の環境」を享受する利益は,「法律上の利益」(行訴法第9条第1項)に該当し,その主体である「周辺の低層住宅」の所有者ないし居住者に本件変更地区計画の原告適格が認められると解すべきである。

2 それでは,原告らは上記「周辺の低層住宅」の居住者に該当するか。

 この点,原告らの居住する甲は第1種低層住居専用地域に指定されているから,都市計画法第13条第1項14号ロの「第1種低層住居専用地域…については」に当たる。そして,原告らは,本件変更地区計画の対象地と区画道路を隔てて居住している(別紙3参照)のであるから,本件変更地区計画のとおり緩衝帯型オープンスペースの設置がされない場合,➊隣地の大規模建物から圧迫感を受け,また➋いわゆる日照被害(別紙3に示される本件変更地区計画変更案記載の建物が建築された場合,原告らの住居は,甲2号証に示されるように,冬至において1時間半~2時間日影が生ずることが明らかである)を被り(原告奥裕子が住宅屋上に設置する太陽光発電も著しく限られることとなる),➌隣地からの騒音によって生活が妨害され,➍通風が阻害され,➎隣地において大火災や大地震等の災害が発生した際に原告らの生命・身体に被害を受けるおそれがある等,「良好な住居の環境」に対し,反復・継続した著しい影響を直接的に受けうる。

 したがって,原告らはいずれも「周辺の低層住宅」(同法第13条第1項14号ロ)の所有者ないし居住者に該当することは明らかである。

3 以上のことから,原告らは「周辺の低層住宅」の所有者ないし居住者に該当し,本件変更地区計画決定の違法を主張する原告適格が認められる。

 そして,原告らが本件変更地区計画の違法を主張する原告適格を有する以上,原告らは,本件地区計画条例取消訴訟の原告適格を有する。

第5 本件地区計画条例の違法性(裁量権逸脱濫用)

 以下より,本件変更地区計画は違法であり,そうだとすれば,本件変更地区計画を前提とする本件地区計画条例も違法である。

1 本件変更地区計画決定の違法性

(1) 地区計画決定における行政裁量にも限界があること

 都市計画法は,地区計画について,「地区施設」(『緩衝帯型オープンスペース』も地区施設としての歩道状空地の一つと考えることが可能である。)を都市計画に定めるものとし(同法第12条の5第2項),また,地区整備計画について,「地区計画の目的を達成するために必要な」場合,「地区施設の配置及び規模」を定める(同法第12条の5第7項)としている。

 そして,地区計画は,「建築物の建築形態,公共施設その他の施設の配置等からみて,一体としてそれぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し,開発し,及び保全するための計画」(同法第12条の5第1項)であり,また地区計画を定めるにあたっては,「公共施設の整備,建築物の建築その他の土地利用の現状及び将来の見通しを勘案し,当該区域の各街区における防災,安全,衛生等に関する機能が確保され,かつ,その良好な環境の形成又は保持のためその区域の特性に応じて合理的な土地利用が行われることを目途」(同法第13条第1項14号柱書き)とされなければならないと規定されている。さらに,本件のような再開発等促進区を定める地区計画の場合には,「土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の増進とが図られることを目途として,一体的かつ総合的な市街地の再開発又は開発整備が実施されることとなるように定めること」と規定されているだけでなく,特に,「この場合において,第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域については,再開発等促進区の周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること。」(同法第13条第1項14号ロ)と規定されている。

 そこで,行政による地区計画の都市計画決定が,「周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」との都市計画法の定めに反しないかが問題となるが,この点に関し,判例は,「裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては,当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として,(Ⅰ)その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,(Ⅱ)事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる」(参照・最高裁2006年11月2日第一小法廷判決・民集60巻9号3249頁)としている。

(2) 本件変更地区計画決定は行政裁量権の逸脱濫用にあたること

 本件変更地区計画決定を定めた訴外東京都は,以下のとおり,(Ⅱ)で述べた判断過程において考慮すべき事情を考慮していないことが明らかであるから,本件変更地区計画決定をなした訴外東京都には行政裁量権の逸脱濫用の違法がある。

ア 考慮事項としての「周辺の低層住宅に係る良好な住居環境」

 本件変更地区計画は再開発等促進区を定める地区計画であるところ,再開発等促進区を定める地区計画に関する規定である都市計画法法第13条第1項14号ロによれば,訴外東京都は本件変更地区計画の決定にあたって,再開発等促進区の周辺の低層住宅(第一種低層住居専用地域等)に係る良好な住居環境への支障がないよう考慮しなければならないとされている。

 また,訴外東京都は,地区計画を都市計画に定める場合,都市の住民が健康で文化的な都市生活を享受することができるよう配慮しなければならない(同法第13条第5項,同条第2項)とされている。

 かかる規定からすれば,第1種低層住居専用地域に居住する原告ら再開発等促進区の周辺の低層住宅の良好な住居環境の保護に支障がないように本件変更地区計画を定めることは,訴外東京都が本件変更地区計画を定めるに当たっての最も大切な必要的考慮事情である。

イ 原告らの「良好な住居環境」への影響を全く考慮していないこと

(ア) 最も大切な考慮事情としての緩衝帯型オープンスペース

 まず,「中野駅周辺まちづくりガイドライン2007」は,警察大学校等跡地を中心とした土地利用ないし都市基盤整備を誘導するものであり(同ガイドライン1頁),ガイドライン制定以降に地区計画等の決定がなされる場合をも予定したものである。

 また,本件変更地区計画における「地区計画の目標」において,「まちづくりガイドラインを策定し,・・・地区で一体の開発整備を推進する。」と記載されていることから,本件変更地区計画も「まちづくりガイドライン」を前提としている。

 そして,「中野駅周辺まちづくりガイドライン2007」は,原告らの居住地と区域1との間に緩衝帯型オープンスペースの設置を計画している(同ガイドライン45頁)。この緩衝帯型オープンスペースに関し,同ガイドライン43頁は,「杉並区に隣接する西側隣地境界付近には,適切なオープンスペースを設けるなどにより,周辺環境との調和を図るとともに,緩衝帯としての機能確保を図る。」とし,杉並区に隣接する西側隣地境界付近に緩衝帯型オープンスペースの設置を予定している。

 この緩衝帯型オープンスペースは,その設置目的が,対象区域と隣接する杉並区高円寺北の住居の環境との調和にあることからすると,再開発等促進区について規定する都市計画法第13条第1項14号ロが「周辺の低層住宅に係る良好な住居環境への支障がないように定めること」と規定することの具体化として,緩衝帯型オープンスペースの設置が考慮されたものである。

 そうすると,訴外東京都が地区計画を作成する場合,このまちづくりガイドライン2007のいう緩衝帯型オープンスペースの存在は,都市計画法第13条第1項14号ロの具体化として,まず何よりも先に考慮しなければいけない必要的考慮事情である。

(イ) 最も大切な考慮事情を無視した本件変更地区計画

 しかし,訴外東京都は,本件変更地区計画を作成するに当たって,まちづくりガイドライン2007において緩衝帯型オープンスペースが存在していることを無視し,何の合理的理由もなしに緩衝帯の存在しない本件変更地区計画の都市計画決定を行った。

 そうすると,この緩衝帯型オープンスペースを合理的な理由もなしに設けないのは,「周辺の低層住宅に係る良好な住居環境への支障がないように定めること」(都市計画法第13条第1項14号ロ)を全く無視するものであるし,「都市の住民が健康で文化的な都市生活を享受することができるように,住宅の建設及び居住環境の整備に関する計画を定めなければならない。」(同法第13条第5項,同条第2項)を全く無視するものである。

ウ 考慮事項を全く考慮しない違法

 以上のことから訴外東京都は,本件変更地区計画決定の際に「周辺の低層住宅に係る良好な住居環境への支障がないように定めること」(都市計画法第13条第1項14号ロ)の具体化として,何よりも先に最も考慮しなければならない「まちづくりガイドライン2007」の定める緩衝帯型オープンスペースの存在を全く考慮しないで緩衝帯を無くした点で,裁量権の逸脱が認められ,本件変更地区計画決定は違法である。

 2 本件変更地区計画が違法であるから,本件地区計画条例も違法であること

 1から,本件変更地区計画は違法であるが,本件変更地区計画が違法である以上,本件地区計画条例を前提とした本件地区計画条例も違法である。

第6 結論

 以上より,本件地区計画条例は,違法であり,直ちに取り消されるべきである。

第7 併合の要請

 本件訴訟は,被告を異にするものの,本件変更地区計画の違法性を争点とする点で,東京地方裁判所で係属中の平成21年(行ウ)第354号都市計画地区計画決定取消請求事件と全く同じである。

そこで,本件訴訟と平成21年(行ウ)第354号都市計画地区計画決定取消請求事件との弁論の併合を要請する。

以上 


添付資料

1 訴状副本                   1通
2 証拠説明書                 各1通
3 甲号証(写)                各1通
4 訴訟委任状                  3通

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