2009年12月6日日曜日

PC0911a 原告準備書面(A1)(公園)

図1 「1-2計画の位置づけ」の体系表は,都市マスの一部と明示

図2 中野区長の巻頭の言葉はみどりの基本計画が都市マスの一部と明言

平成21年(行ウ)第253号 都市計画決定違法確認請求事件

原告 A 外3名

被告 中野区

準備書面(1)

2009年(平成21年)11月13日


東京地方裁判所民事3部B1係 御 中

原告ら訴訟代理人

弁 護 士   日置 雅晴
同      富田 裕
同      花澤 俊之

第1 訴訟要件  

1 公法上の法律関係が存在すること
 

(1) 原告らと被告の法律関係


 被告は,「原告らの提起した本件訴えは,原告らの権利ないし法律上の地位といった法律関係を離れて単に本件決定の違法の確認を求めることにすぎないものであるから,公法上の法律関係に関する訴訟とはいえず,同条後段の定める当事者訴訟の要件に合致しない。」と主張する。

 しかし,内閣総理大臣答弁書(内閣衆質159第65号)によると,「公法上の法律関係に関する確認の訴え」を明示した趣旨について,「行政立法,行政計画,行政指導等のそれ自体としては抗告訴訟の対象とならない行政の行為を契機として争いが生じた公法上の法律関係に関し確認の利益が認められる場合については,現行の行政事件訴訟法(昭和37年法律139号)においても,当事者訴訟として確認の訴えが可能であるが,その活用を図るため,『公法上の法律関係に関する確認の訴え』を当事者訴訟の一類型として明記する」とされている。

 この内閣総理大臣答弁書からすると,公法上の法律関係に関する確認訴訟は,まさに本件の都市計画決定のような処分性の認められない行政計画を争うための訴訟類型であり,本件について,公法上の法律関係でないという理由で訴えを認めないとすると,特に平成16年に法律改正し,行政事件訴訟法4条後段を設けた意義が全く失われてしまう。

 また,立法者の意思によると,公法上の法律関係に関する訴訟(行政事件訴訟法4条後段)は,「多様な関係に応じた実効的な権利救済を可能とする趣旨」で設けられた訴訟類型である。すなわち,衆議院法務委員会は,平成16年5月14日,「公法上の法律関係に関する確認の訴えについては,権利義務などの法律関係の確認を通じて,取消訴訟の対象となる行政の行為に限らず,国民と行政との間の多様な関係に応じた実効的な権利救済を可能とする趣旨であることについて,周知徹底を努めること。」との附帯決議を行い,同委員会は,最高裁判所がこのことについて格段の配慮をすべきとしている(甲3)。

 また,参議院法務委員会も,平成16年6月1日,「公法上の法律関係に関する確認の訴えについては,これまでの運用にとらわれることなく,その柔軟な活用を権利義務などの法律関係の確認を通じて,取消訴訟の対象となる行政の行為に限らず,国民と行政との間の多様な関係に応じた実効的な権利救済を可能とする趣旨であることについて,周知徹底を努めること。」との附帯決議を行い,同委員会は,最高裁判所がこのことについて格段の配慮をすべきであるとしている(甲3)。

 ここで,立法者は,「多様な法律関係」という言葉を用いることで,国民と行政との関係を幅広くとらえようと考えていると読み取れるし,「実効的な権利救済を可能とする趣旨」という説明がなされていることからは,権利救済の必要性の観点から「公法上の法律関係」の有無を判断しようとする趣旨と読み取ることができる。

 そうであるならば,国民の権利の実効的な救済を必要としている場合において,「公法上の法律関係」の意味を狭くとらえ,「公法上の法律関係」の不存在を理由として,訴えを却下していたのでは,本来,国民の権利救済のために設けられた制度が全く国民の権利救済に役立たないことになり,本末転倒となる。

 そこで,この「公法上の法律関係」の意味は,原告被告間に直接の法律関係がある場合に限定されず,国民の権利救済の観点から,国民の権利救済の必要性がある場合には,なるべく広く認めるべきである。

 本件について見れば,原告A及びDが杉並区高円寺北1丁目に居住し,原告Bが中野区新井2丁目に居住し,原告Cが中野区野方1丁目に居住しているが,これら原告はいずれも,東京都震災対策条例47条1項の規定に基づき,東京都知事によって,「中野区役所」一帯を広域避難場所に指定された者であり,震災時において,中野区が都市計画決定した中野中央公園に避難することが予定されている者である。

 そうだとすると,原告らは,いずれも,中野区が都市計画決定した中野中央公園に避難する利益が法律上保障されているが,その利益が中野区の都市計画決定如何によって左右されるという関係にあるので,「公法上の法律関係」があるといえる。

 そして,この結論は,原告らの権利救済の必要性からも是認される。すなわち,当初,中野区みどりの基本計画において,中野区役所一帯広域避難場所の中核として,約4ヘクタールの公園が予定されていたのが,本件都市計画決定によって,約1.5ヘクタールに縮小されたということは,原告らが,災害時に避難する場所の面積が大幅に減少したことになるから,原告らの避難の法的利益,即ち,原告らの生命,身体の安全という法益が大幅に侵害されたことになる。

 そうすると,このような場合,原告らの避難の法的利益が害されるのを救済する必要性が高いから,「公法上の法律関係に関する訴訟」を認める必要性が高い。

(2) 三井グラウンド訴訟で認められた原告適格

 「公法上の法律関係」の要件について,原告らは,原告が訴訟を遂行する適格を有するか(原告適格)にかかわる要件であると考えている。

 そして,処分性の認められる事案においては,東京地方裁判所平成20年5月29日判決(平成18年(行ウ)第226号,三井グラウンド訴訟)が,避難場所を利用することが予定されている地域に居住する住民に原告適格を認めている。

 そうであるならば,本件においても,原告らに原告適格が認められるし,「公法上の法律関係」が認められる。

 以下,三井グラウンド訴訟について簡単に説明する。

 三井グラウンド訴訟においては,原告らが,土地区画整理事業の施行認可の取消を求めるについて法律上の利益を有するかが争われた。この点について,裁判所は,土地区画整理法の関係法令として都市計画法,東京都震災対策条例をあげるとともに,土地区画整理事業の認可された場合に害されることになる避難場所の周辺住民の利益の内容として生命,身体の安全という住民の個別的利益をあげ,土地区画整理法及び関係法令の趣旨,目的,土地区画整理事業の認可を通して保護しようとしている利益の内容,性質を考慮すれば,土地区画整理法は,震災に当たり生命,身体に被害を受けるおそれのある個々の住民の被害から免れる利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨であるとした。そして,避難場所を利用することが予定されている地域に居住する住民は法律上の利益を有するものとして原告適格を認めた。

 本件においても,原告らが「訴状の補正」8頁以下において主張した通り,根拠法令としての都市計画法,関係法令としての東京都震災対策条例があり,都市計画決定に基づき侵害される避難場所の周辺住民の利益の内容は生命,身体の安全という住民の個別的利益である。

 そうだとすると,都市計画法は,震災に当たり生命,身体に被害を受けるおそれのある個々の住民の被害から免れる利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨である。そこで,避難場所を利用することが予定されている地域に居住する原告らに原告適格が認められるし,「公法上の法律関係」が認められる。

2 確認の利益の存在

(1) 被告は,答弁書2(2)において,「原告らも含めて住民の権利義務に直接影響を与えるものではない。したがって,本件決定の確認の利益がない。」と主張する。

 しかし,この主張の前段の「住民の権利義務に直接影響と与えるものではない」は,処分性の有無であって,後段の確認の利益がないことの理由とはならない。原告らは,処分性がないことを前提としつつ,紛争の成熟性があることを理由に,確認の利益の存在を主張し,実質的当事者訴訟(行政事件訴訟法4条後段)として認められると主張しているのだから筋違いの議論である。

 そして,原告らは,紛争の成熟性があることについて「訴状の補正」の4~8頁で説明したが,反論されていない。

(2)
 被告は,答弁書2(2)(3頁)において,「損害賠償請求訴訟ないし差止訴訟により端的にその権利侵害による損害の回復を求めることが可能なのだから,本件訴えのほかに適切な訴訟手段がないとはいえない」と主張する。

 しかし,損害賠償請求訴訟は,損害が発生してから訴えを提起するものであるところ,損害の発生とは,中野中央公園の面積が当初よりも小さいことで,避難の利益が実際に害されることを意味する。

 そして,避難面積の縮小とは,災害時の生命身体といった金銭に換え難い法益の侵害を意味するから,損害賠償では回復不可能である。

 また,差止訴訟に関していうと,被告は,本来公園となるべき場所に建築行為がなされる場合の建築確認の差し止めを指していると思われる。しかし,公園の

 周囲には多数の建築物が存在する中で,公園の面積と建築物の存在との関連性が間接的なものでしかないことから,公園の周囲の建物のうち,どの建物が本来公園となるべき部分の面積を侵害しているか明らかでなく,どの建物の建築確認の差止請求を行えばよいか特定が不可能という問題が生じる。結局,差止訴訟では紛争解決に全くならないのである。

 また,仮に,建築確認の差止訴訟において,先行行為としての都市計画決定の違法を争いうるとしても,建築確認はその多くが民間建築確認機関によりなされているところ,民間建築確認機関相手に行政が行った都市公園の都市計画決定の違法を問うことは妥当性に欠ける。

第2 本件都市計画決定の違法性

1 都市計画法18条の2第4項違反


(1) 「中野区みどりの基本計画」は「中野区都市計画マスタープラン」の一部


ア みどり基本計画の「1-2計画の位置づけ」は,都市マスの一部と明言


 都市計画法18条の2第4項は,「市町村の定める都市計画は,基本方針に即したものでなければならない。」と規定している。

 ここで,「市町村の定める都市計画」とは,公園を含む都市施設や地区計画など,都市計画決定により定められる都市計画を指すから,本件の中野中央公園の都市計画決定もこれに当たる。

 そして,ここで,「基本方針」とは,市町村の定める都市計画マスタープランを指し,本件に関していうと,中野区都市計画マスタープランがこれに当たり,被告も,このことについては争っていない。

 そうすると,都市計画法18条の2第4項を本件に当てはめると,「中野中央公園の都市計画決定は,中野区都市計画マスタープランに即したものでなければならない。」ということになる。

 そして,仮に,「中野区みどりの基本計画」(乙6)が中野区都市計画マスタープランの一部であるとすると,都市計画法18条の2第4項は,「中野中央公園の都市計画決定は,中野区みどりの基本計画に即したものでなければならない。」ということになる。

 そこで,「中野区みどりの基本計画」が中野区都市計画マスタープランの一部をなすものかが問題となるが,「中野区みどりの基本計画」の「1-2 計画の位置づけ」からすると,「中野区みどりの基本計画」は,中野区都市計画マスタープランの一部である。

 すなわち,「中野区みどりの基本計画」(乙6)の3頁,「1-2 計画の位置づけ」の中で,「中野区みどりの基本計画」は,「中野区都市計画マスタープランの「環境と共生するまちづくり」分野のみどりに関する個別計画の性格をあわせ持つもの」と記載されているから,「中野区みどりの基本計画」は,「中野区都市計画マスタープラン」の一部をなしていると解されるのである。

 そうすると,都市計画法18条の2第4項によると,「中野中央公園の都市計画決定は,中野区みどりの基本計画に即したものでなければならない。」ことになる。

イ 「1-2計画の位置づけ」の体系表は,都市マスの一部と明示

(図1参照)

 上の図は,「中野区みどりの基本計画」の「計画の位置づけ」に載せられている体系図である。この図からは,中野区みどりの基本計画が中野区都市計画マスタープランの個別化計画として,中野区都市計画マスタープランをより詳細化した内容となっていることを読み取ることができる。

 そうだとすると,中野区みどりの基本計画は中野区都市計画マスタープランの一部であり,都市計画法18条の2第4項に当てはめると,「中野中央公園の都市計画決定は,中野区みどりの基本計画に即したものでなければならない。」ことになる。

ウ 中野区長の巻頭の言葉はみどりの基本計画が都市マスの一部と明言

 みどりの基本計画(乙6)の巻頭は,中野区長の言葉により始まっているが,そこでは,中野区みどりの基本計画が中野区都市計画マスタープランの一部であることが述べられている。以下,引用する。

(図2参照)

 この区長の言葉からすると,「中野区みどりの基本計画」は,中野区都市計画マスタープランの策定に際して寄せられたみどりに関する提案をもとに,中野区都市計画マスタープランの具体化,詳細化の一環として,中野区都市計画マスタープランの一部として策定されたことを読みとることができる。

 そうすると,中野区長の言葉からも,中野区みどりの基本計画は中野区都市計画マスタープランの一部であり,都市計画法18条の2第4項からすると,「中野中央公園の都市計画決定は,中野区みどりの基本計画に即したものでなければならない。」ことになる。

エ この点について,被告は,準備書面(1)の6頁において,「中野区みどりの基本計画」は,「中野区都市計画マスタープラン」の一部ではないと主張する。

 しかし,前記ア~ウからすれば,「中野区みどりの基本計画」は,「中野区都市計画マスタープラン」の一部をなしているのは明らかである。

(2) 1.5haの公園都市計画決定は,みどりの基本計画のいう4haに反すること

 中野区みどりの基本計画(乙6)の14頁において,「(中央部防災公園の整備推進) 中野区役所一帯の広域避難場所の中核として,警察大学校等移転跡地に約4ヘクタールの公園を都市計画決定し,整備推進に努めます。」と明記していることは,被告も認めている(乙6の14頁)。

 そうだとすると,本件都市計画決定は,1.5ヘクタールの公園を都市計画決定するものであり,4ヘクタールの公園の都市計画決定を記載する中野区みどりの基本計画に明確に反している。

(3) 都市計画法18条の2第4項違反

 (1)で述べたように,都市計画法18条の2第4項を本件に当てはめると,「中野中央公園の都市計画決定は,中野区みどりの基本計画に即したものでなければならない。」ことになる。

 そうだとすると,都市計画法18条の2第4項によると,中野中央公園の都市計画決定が定める公園の面積は,中野区みどりの基本計画の内容に即して,約4ヘクタールを確保しなければならないことになるはずである。

 しかし,本件都市計画決定では,中野中央公園の面積を1.5ヘクタールしか確保しなかった。

 これは,公園面積1.5ヘクタールを決めた中野中央公園の都市計画が,公園面積約4ヘクタールを要請する中野区みどりの基本計画に即していなかったことを意味する。

 そうだとすると,本件都市計画決定は,都市計画法18条の2第4項に違反していることが明白である。

2 東京都の地域防災計画の避難面積1人1㎡に違反する違法

(1) 東京都地域防災計画上,1人1㎡の避難面積は最低限度であること

 東京都の地域防災計画 震災編の236頁(第3部 災害応急・復旧対策計画,第9章 避難者対策,第2節 避難場所・避難道路の指定及び安全化,1 避難場所・避難道路の指定,(1)避難場所の考え方)によると,「避難場所は,地区割当計画の避難計画人口に対して,避難場所内の建物などを除き,震災時に拡大する火災によるふく射熱の影響を考慮して算定した利用可能な避難空間を,原則として1人あたり1㎡確保する。」と,1人あたり1㎡確保することとされている。

 この,1人当たり1㎡とは,人が立っている人々の間をやっと通り抜けることができる限界の人口密度であり,混雑時の駅のプラットホームがほぼこれに相当する。

 もっとも,この場合,避難者が避難地内部で動き回る余地がほとんどなく,内部でのちょっとした混乱も吸収する余裕がないと考えられるため,一人当たりの有効避難面積を2㎡以上とすることが望ましいといわれている。

(2) 本件では1人当たり1㎡さえクリアできない違法があること

 現況の中野区役所一帯の広域避難場所について,東京都の地域防災計画によると,避難有効面積は,102,900㎡であるとされている。そして,東京都の地域防災計画によると,この広域避難場所を利用する住民の数は96,000人であるとされている。そこで,1人当たりの有効避難面積は,102,900㎡÷96000人=1.07㎡/人とされている。

 これは,防災基本計画のいう1人1㎡をわずかに上回っているにすぎない数値であり,必要最低限のレベルをかろうじて満たしているにすぎない。

 東京都23区の現在の1人当たりの避難有効面積は,平均で3.4㎡/人であるのと比較すると,中野区の1人当たりの避難有効面積は23区平均の約3分の1程度でしかない。

 このように,もともと1人当たりの避難面積が狭い深刻な状況のもと,本件において,さらに追い打ちをかけるように,中野中央公園の面積が当初予定の約4ヘクタールから,1.5ヘクタールに縮小されることになった。

 そして,中野中央公園は避難場所の中核とされていたことからすると,公園の面積の2.5ヘクタールの減少は,有効避難面積の2.5ヘクタール減少を意味すると考えられる。

 ここで,有効避難面積が現況から2.5ヘクタール減少し,102,900㎡から77,900㎡になったとすると,一人当たりの有効避難面積は,77,900㎡÷96000人=0.81㎡/人,即ち,1人1㎡という最低限のラインさえクリアできなくなってしまうことになる。

 これは,東京都の防災基本計画に反する点で違法であるだけでなく,実質的に見ても,災害時において,住民の生命,身体に対する重大な被害が生ずるおそれがある点でも違法である。

(3) 民有地では確保したことにならないこと

 被告は,準備書面(1)7頁において,「そもそも避難場所は,火災等の災害発生時に避難をする場所であり,避難場所は,公園のみならず,公共空地でもその機能を果たしうるものである。」と主張する。

 しかし,被告の主張する「公共空地」とは,私人(民間企業)の所有する空地を意味していると考えられる。この民有空地については,将来にわたり防災公園の機能を有する永続的な空地として存在する担保は何らなされていない。

 具体的には,民有空地を所有する事業者が,民有空地に建築計画を意図した場合,これを拒むことはできないので,建築確認が下りて建築できることになる。このように,将来的に建築物が建築されたり,駐車場や駐輪場になることを禁止できない民有空地に頼った現行の計画では,防災機能を確保したとはいえない。

 被告は,準備書面(1)の7頁において,「新たに,約2ヘクタールの避難可能なオープンスペースが整備されることになっており,1.5ヘクタールの中野中央公園と合わせて約3.5ヘクタールというほぼ同等の避難有効面積が確保される」と主張している。

 しかし,被告が主張する,約2ヘクタールのオープンスペースとは,原告が前記(1)で述べた民有空地であるから,将来的に空地として防災機能を有する担保が何らなされておらず不十分である。

 また,被告が主張する約2ヘクタールのオープンスペースが,果たして避難場所として機能するか疑問である。被告に対し,約2ヘクタールのオープンスペースの位置,面積を図面上に示して提示することを求める。

 被告は,準備書面(1)の7頁において,「被告は,建物の不燃化,建物相互のオープンスペースの確保及び樹木の適正配置等について指導誘導していく方針である」と主張する。

 被告の指導誘導の具体的内容及び強制力のない指導誘導に実効性を持たせるべく被告のとる措置の具体的内容,仮に,民間事業者が指導誘導に従った場合,火災時における被害が減少する理由を明らかにすることを求める。

(4) オープンスペースに関する資料提示の要請

 被告に対し,以下について明らかにすることを求める。

 被告は,準備書面(1)5頁8,アにおいて,「防災公園は,隣接する約0.5ヘクタールの公開空地等と合わせ,組織的な防災訓練など区民等の防災活動に利用しうる,およそ2ヘクタールの防災空間を確保する」と主張する。

 この点に関し,0.5ヘクタールの公開空地の位置を平面図上で示されたい。

 被告は,準備書面(1)5頁8,イにおいて,「上記2ヘクタールの防災空間と周辺のオープンスペースなどをあわせて,3~4ヘクタールの緑地空間とし,環境・防災上の機能を発揮させる」と主張する。

 この点に関し,周辺のオープンスペースの位置を平面図上で示すとともに,その面積が1ヘクタールなのか,2ヘクタールなのか,具体的な面積を数値で示されたい。「3~4ヘクタール」とは,実際のところ,何ヘクタールなのか具体的数字で示されたい。

 被告は,準備書面(1)5頁,10において,「新たに,公共空地約1.5ヘクタール,緑地0.1ヘクタール,広場約0.05ヘクタール,歩行者通路0.156ヘクタール及び歩道状空地0.18ヘクタールの合計2ヘクタールが,災害時に避難可能なオープンスペースとして確保されることになった」と主張する。

 この点に関し,公共空地,緑地,広場,歩行者通路,歩道状空地のそれぞれの場所を平面図上で示されたい。

 被告は,準備書面(1)7頁4において,「避難場所は,公園のみならず,公共空地でもその機能を果たしうるもの」と主張する。

 被告が主張する「公共空地」とは,民有地か,公有地かを明示することを求める。さらに,仮に,「公共空地」が民有地であった場合,公共空地が避難場所として機能し続けることを担保するために,どのような施策が予定されているのか明らかにすることを求める。

 被告は,準備書面(1)7頁4において,「新たに,約2ヘクタールの避難可能なオープンスペースが整備されることになっており,1.5ヘクタールの中野中央公園と合わせて約3.5ヘクタールというほぼ同等の避難有効面積が確保される」と主張する。

 この点に関し,新たな2ヘクタールの避難可能なオープンスペースの位置を平面図上で示すとともに,このオープンスペースが複数のオープンスペースの集合である場合,それぞれのオープンスペースの面積を示すことを求める。さらに,被告は,準備書面(1)5頁の8,アの中で「約0.5ヘクタールの公開空地等」という言葉を用いているが,新たな2ヘクタールの避難可能なオープンスペースの中には,この0.5ヘクタールの公開空地を含むのか,含まないのか明らかにすることを求める。

(5) 避難面積,避難人口に関する資料提示の要請

 原告らは,公園に代わるオープンスペースの存在だけでなく,今後とも広域避難場所である中野区役所一帯において,避難有効面積102,900㎡を確保できるか,避難人口の増加により避難の安全の確保に支障が生ずるおそれについて懸念している。

 そこで,被告に対し,以下の資料の提出を求める。

 現況の避難有効面積算定の基礎となる資料,即ち,図面上に避難有効面積と評価されるエリアを明示し,避難場所の面積の合計が102,900㎡となることを示すことを求める。

 本件都市計画決定の後,どれだけの避難有効面積を確保できるか疑問である。

 そこで,被告に対し,中野区役所一帯において,今後予定される避難有効面積と評価されるエリアを図面上明示し,この避難有効面積の合計がどれだけの広さになるのか示すことを求める。

 さらに,中野区役所一帯に避難する避難人口の合計は,現況では96,000人とされているが,その人口は昼間の人口をいうのか,夜間の人口をいうのか,どちらかに当たるとした場合のその理由について,明らかにされたい。

 中野区役所一帯に建物が建築されたことにより,このエリアで働く人口が大幅に増加することになると思われるが,被告は,中野区役所一帯においてオフィスビルが建築されることにより,中野区役所一帯に避難する避難想定人口が昼間の人口,夜間の人口でどれだけになると予測しているか明らかにされたい。

 1人当たりの避難面積を算定するための避難人口は,昼間の人口で算定するのか,夜間の人口で算定するのか,どちらかに当たるとした場合のその理由について明らかにされたい。

 中野駅周辺での買い物客,電車の乗客の中野区役所一帯への避難計画はどのように考えられているか明らかにされたい。

 原告らの調べたところによると,東京都都市整備局市街地整備部企画課は,2005年10月4日~2006年3月31日までの間,首都大学東京大学院都市科学研究科教授(都市防災計画学)の中林一樹委員長を中心とする避難場所安全性等調査研究委員会に対し,避難場所等の安全性に関する調査研究を委託し,その結果,2007年2月17日,首都大学東京産学連携センターより「避難場所の安全性に関する調査」という名の報告書が出されている。

 原告らは,この「避難場所の安全性に関する調査」報告書において,東京都地域防災計画のいう避難面積1人当たり1㎡の根拠が述べられていると考えている。

 そこで,この「避難場所の安全性に関する調査」の報告書の提出を要請する。

PC9808a 原告 追加的併合(公園)

平成21年(行ウ)第253号都市計画決定違法確認請求事件

原告 E  外3名

被告 東京都中野区

第三者による請求の追加的併合

2009年(平成21年)8月26日

東京地方裁判所民事第3部 御 中

原告ら訴訟代理人

弁 護 士  日置 雅晴
同      富田 裕
同      花澤 俊之

(中略)

都市計画決定違法確認請求事件

訴訟物の価額    640万円

貼用印紙額        3万6000円

 原告らは,頭書事件について,行政事件訴訟法18条に基づき,下記の訴えを併合して提起する。

請求の趣旨

 中野区が平成19年4月6日付中野区告示で告示した中野中央公園の面積を約1.5haとした都市計画決定(中野区告示第52号)が,違法であることを確認する

 訴訟費用は被告らの負担とする

 との判決を求める。
 
請求原因

 平成21年(行ウ)第253号都市計画決定違法確認請求事件の訴状記載の請求原因及び同事件の平成21年6月12日付訴状の補正と同じである。

 ただし,原告Gは杉並区高円寺北1丁目に居住し,Hは中野区東中野2丁目に居住するが,杉並区高円寺北1丁目及び中野区東中野2丁目は,中野中央公園を含む「中野区役所一帯」を広域避難場所に指定され,周辺地域で震災や火災が発生した場合には,中野中央公園へ避難することが予定されている(甲5)。

 原告E及びFは,中野区警察大学校等跡地近隣(中野区上高田4丁目)に居住し、火災の発生場所と風向きによっては、警察大学校跡地の中野中央公園に避難せざるを得ない者である(甲5)。

 従って,原告G,原告Hと被告との間には,原告G,原告Hは,震災時において被告が都市計画決定をした中野中央公園に避難することが予定されているという内容の法律関係が存在する。

 そして,原告E及びFと被告との間には,原告E及びFは,震災時の火災の発生場所と風向きによっては、警察大学校跡地の中野中央公園に避難せざるを得ないという内容の法律関係がある。

添付書類

1 訴状副本                 1通

2 証拠説明書               各1通

3 甲号証(写)              各1通

4 訴訟委任状                4通

DC0908a 準備書面(1)(地区計画)

平成21年(行ウ)第253号 都市計画地区計画決定取消請求事件

原告 A 外2名

被告 東京都

2009年8月4日

東京地方裁判所民事3部B係 御中

原告ら訴訟代理人

弁 護 士  日置 雅晴

同      富田 裕

同      花澤 俊之

準備書面(1)

 2009年7月16日付訴状について,以下を追完する。

第1 確認を求める原告らと被告との間の法律関係の具体的内容

 被告は東京都市計画地区計画(東京都告示第954号。以下,「本件変更地区計画」という。)を都市計画決定し,本件変更地区計画は,「周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」(都市計画法第13条第1項14号ロ)を要請するところ,原告らは,「周辺の低層住宅」の所有者・居住者であり,本件変更地区計画によって,「良好な住居の環境」が侵害されるという法律関係にある。以下,詳述する。

1 被告の都市計画では周辺居住者の「良好な住居の環境の保護」が求められていること

 被告東京都は,2009年6月22日付けで,本件変更地区計画を都市計画決定した。

 その都市計画決定の内容には,訴状別紙2に記載されるとおり,再開発等促進区の定めがなされている。

 そして,再開発等促進区に関する都市計画法第13条第1項14号ロによると,再開発等促進区を定める地区計画を定める場合は,「第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域については,再開発等促進区の周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」と規定されている。

 この規定の趣旨は,再開発等促進区を定める地区計画が定められる場合,容積率緩和による土地の高度利用,建物の高層化等により,周辺の低層住宅の良好な住居の環境が害される畏れがあるので,地区計画対象地周辺の低層住宅を所有・居住する者に対して,「良好な住居環境」の利益を保護する必要性を定めたものと考えられる。

 そこで,保護が要請される「良好な住居環境」の内容が問題となる。

2 周辺居住者に保護される「良好な住居の環境」の具体的内容

 周辺居住者に保護される良好な住居環境の利益の具体的内容として,以下のものが考えられ,これらの利益は,原告らの人格権として保障される。

(1)居宅の日照・通風が阻害されない利益は,快適で健康な生活に必要な生活利益として法律上保護されるべき利益である(最高裁1972年6月27日第三
小法廷判決・民集26巻5号1067頁)とされている。

(2)また,隣地の建造物から圧迫を受けない利益についても,法律上保護されるべき利益であるとされている(神戸地裁姫路支部1999年10月26日決定・判タ1038号291頁)。

(3)さらに,大阪高裁2003年10月28日判決・判例集未登載によれば,「個人がその居住する居宅の内外において良好な風環境等の利益を享受することは、安全かつ平穏な日常生活を送るために不可欠なものであり、法的に保護される人格的利益として十分に尊重されなければならない。」とされている。

(4)加えて,静穏な生活を送る利益や,隣地の火災から生命・身体・財産が守られる利益が,法律上保護されるべき利益であることは言を待たない。

3 本件訴訟の原告らは「良好な住居の環境」の保護を受けること

 原告らは,東京都市計画地区計画対象地(以下,「本件対象地」という。)の隣地に居住する者であり,しかも,第一種低層住居専用地域に居住する者である。

 そうだとすると,原告らは,都市計画法第13条第1項14号ロの「第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域」における「再開発等促進区の周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境」の保護を受ける者に明確に該当している。

 したがって,前記2記載のとおり,原告らの居宅の日照・通風が阻害されない利益,隣地の建造物から圧迫を受けない利益,良好な風環境等の利益および隣地の火災から生命・身体・財産が守られる利益は保護されなければならない。

4 被告の変更地区計画により,原告らの「良好な住居の環境」が侵害されること

(1) 侵害の確実性について

 2009年7月16日付訴状で述べたとおり,本件変更地区計画は,建造物の高さや容積率の制限や壁面位置の制限等が具体的になされており,建設予定の建造物がこれらの制限以下に自主規制するとは全く考えがたい以上,本件変更地区計画に記載される建物の高さ,容積率,壁面位置等の数字が,近い将来建設される建物の高さ,容積率,壁面位置等の数字と一致すると考えられる。

 さらに,本件変更地区計画においては, 建物の位置,幅,奥行き,高さ等についても既に具体的に定まっている。

 したがって,開発許可ないし建築確認を待つまでもなく,本件変更地区計画決定段階において,原告ら周辺居住者の人格権に対する具体的な侵害が確実に想定できる。

(2) 原告らの諸利益の具体的な侵害可能性について

 日照が阻害されることは,訴状において既に述べた。

 また,原告らの居住地の隣地に建設される予定の建造物は,いずれも50メートルを超えることが予定されており(訴状別紙3参照),特に原告Aと原告Bの居宅は,訴状別紙2記載の区域1-1と区域1-2の間であって風の通り道にあたり,強風等風害が発生するおそれが高い。そしてそれ故,隣地で火災が発生した場合は,直接延焼の可能性が極めて高い。

 一方,原告Cの居宅は,風の通り道でないから通風が阻害されるおそれが高い。

 原告らの居住地は,第一種低層住居専用地域であって高さが10メートルに制限されており,隣地の建造物(低くとも50メートル)から原告らが受ける圧迫感は極めて大きい。

 加えて,「中野駅周辺まちづくりガイドライン2007」は,原告らの居住地と区域1との間に緩衝帯型オープンスペースの設置を計画していた(同ガイドライン45頁)。

 そして,同ガイドライン43頁が,この緩衝帯型オープンスペースに関し,「杉並区に隣接する西側隣地境界付近には,適切なオープンスペースを設けるなどにより,周辺環境との調和を図るとともに,緩衝帯としての機能確保を図る。」としていることからすると,この緩衝帯型オープンスペースは,西側隣地に住む原告らの良好な住居の環境を保護するために予定されていた。

 そうすると,緩衝帯型オープンスペースの設置は,都市計画法第13条第1項14号ロの規定する「再開発等促進区の周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護」の具体化であったということができる。

 原告らは,この緩衝帯型オープンスペースの設置により,日照,風環境,圧迫感の緩和,静穏に生活する利益等をかろうじて保持することができるはずであった。

 しかしながら,本件変更地区計画では,原告ら,周辺住民の意思を問うことなくこの緩衝帯型オープンスペースの設置がとりやめとされた。

 これは,原告ら周辺住民の日照,圧迫感,風環境,静穏に生活する利益を侵害するものである。

 以上より,被告による本件変更地区計画によって,原告らは,日照阻害,風害,圧迫感といった人格権を侵害されることになる。

5 原告らの「良好な住居の環境」の侵害は,「良好な住居の環境の保護に支障がないように定める」(都市計画法第13条第1項14号ロ)に反すること

 前記4で述べたように,被告による本件変更地区計画によって,原告らは,日照阻害,風害,圧迫感といった人格権侵害を受けることになる。

 都市計画法第13条第1項14号ロは,「良好な住居の環境の保護」を規定するが,「良好な住居の環境の保護」とは,日照・通風が阻害されない利益,隣地の建造物から圧迫を受けない利益,良好な風環境等の利益,静穏な生活を送る利益等の保護をいう。

 そうすると,被告による本件変更地区計画によって,原告らが,日照阻害,風害,圧迫感といった人格権侵害を受けることは,「周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」(都市計画法第13条第1項14号ロ)に反することとなる。

第2 結論

 以上より,被告は本件変更地区計画を都市計画決定し,本件変更地区計画は,「周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」(都市計画法第13条第1項14号ロ)を要請するところ,原告らは,「周辺の低層住宅」の所有者・居住者であり,本件変更地区計画によって,「良好な住居の環境」が侵害されるという法律関係にある。

以上 

DC0907a 原告訴状(地区計画)

訴状

2009年7月16日

東京地方裁判所 御中

原告ら訴訟代理人

弁 護 士   日置 雅晴

同      富田 裕

同      花澤 俊之

原 告

(中略)

〒162-0825 東京都新宿区神楽坂三丁目2番5号SHKビル4階
神楽坂キーストーン法律事務所(送達場所)
電 話 03-5228-0342 FAX 03-5228-0392

原告ら訴訟代理人

(中略)

〒164-8501 東京都中野区中野四丁目8番1号

被 告(処分庁)   東京都

代表者都知事     石原慎太郎

東京都市計画地区計画決定取消請求事件

訴訟物の価額   480万円

貼用印紙額   2万9000円

請求の趣旨

 2009年6月22日付で東京都が決定・告示した東京都市計画地区計画決定(東京都告示第954号)を取消す

 1が認められない場合,2009年6月22日付で東京都が決定・告示した東京都市計画地区計画決定(東京都告示第954号)が違法であることを確認する

 訴訟費用は被告の負担とする
との判決を求める。

請求原因

第1 当事者

1 原告ら

(1)原告Aは,杉並区高円寺北1****(第一種低層住居専用地域)に居住しており,本件東京都市計画地区計画を定める土地の区域である中野区中野四丁目地区と,区画道路を挟んで隣接居住している者である。

(2)原告Bは,杉並区高円寺北1****(第一種低層住居専用地域)に居住しており,本件東京都市計画地区計画を定める土地の区域である中野区中野四丁目地区と,区画道路を挟んで隣接居住している者である。

(3)原告Cは,杉並区高円寺北1****(第一種低層住居専用地域)に居住しており,本件東京都市計画地区計画を定める土地の区域である中野区中野四丁目地区と,区画道路を挟んで隣接居住している者である。

(4)なお別紙1の地図上に,上記原告3人の居住地を記載した。

2 被告

 被告東京都は,2009年6月22日付で東京都市計画地区計画(地区計画変更部分は,中野区中野四丁目地内。)を決定・告示した者である。

第2 東京都市計画地区計画(東京都告示第954号)の内容について

 東京都市計画地区計画(東京都告示第954号)は,中野四丁目地区を対象区域とする計画であり,その具体的な内容は別紙2記載のとおりである。

第3 東京都市計画地区計画(東京都告示第954号)の処分性

 第2記載のとおり,本件東京都市計画地区計画(東京都告示第954号)は,中野四丁目地区を対象区域とする計画であり,2007年4月6日付東京都市計画地区計画(東京都告示第596号)を変更する計画である。そのため以下においては,本件東京都市計画地区計画(東京都告示第954号)を「本件変更地区計画」と記す。

 本件変更地区計画は,特定個人の権利義務に直接的変動を及ぼす具体的な制約であること。

(1)本件変更地区計画は地区整備計画を伴い,かつ各土地取得者は現に開発許可を取得する必要がある場合であるから,本件変更地区計画は特定個人の権利義務に直接的変動を及ぼす具体的な制約であるといえる。

 すなわち,本件変更地区計画は同時に地区整備計画も伴う。そのため,①土地の区画形質の変更ないし建築を行なう際には,区長への届出が義務付けられ(都市計画法第58条の2第1項,同法第93条),区長は届出が計画に適合しない場合に勧告を発することができる(同法第58条の2第3項),また,②開発許可を要する行為については,(①の届出は不要だが)地区計画への適合性が開発許可の基準とされる(同法第33条第1項5号),さらに,③区は地区計画で定められた建築物の敷地・構造・用途に関する事項について,必要に応じて条例で規制することができ,条例が定められた場合はそれらが建築確認の対象となる(建築基準法第68条の2),加えて,④道路位置指定は,建築計画に即して行なわなければならなくなる(同法第68条の6)等の効果が生じる。このように,開発許可を要する場合か,条例が制定された場合には,地区計画に法的拘束力が生じることになる。

 本件変更地区計画決定時点(2009年6月22日)においては,既に地区計画対象地の各取得者が決定しかつその用途も決定している(2007年5月~同年6月)上,開発行為がなされることも確定しているから,本件変更地区計画決定時点において,開発許可を要する場合であることが明らかであり,少なくとも本件変更地区計画の決定時点では,土地所得者に対する法的拘束力の発生が肯定できる。また,本件変更地区計画の敷地で建築行為が行われることも確定しているから,本件変更地区計画決定時点において,建築確認の要件として,本件変更地区計画に適合したものでなければならないという拘束力があることも肯定できる。

(2)また,本件変更地区計画の地区整備計画は,地区計画というよりもはや建築確認に近く,特定個人の権利義務に直接的変動を及ぼす具体的な制約が認められる。

 すなわち,本件変更地区計画は,6つの建築物の外壁・高さ・幅が具体的に規制されており(別紙3参照),地区計画というよりもはや建築確認に近く,この点からも法的拘束力を肯定できる。すなわち,区域1-1には,明治大学の建築が予定されているが,この建物の敷地内の外壁位置,西立面,南立面,建物の高さ(約70m)・幅・奥行き,容積率の最高限度(10分の35),学生プラザの位置等は既に決定している。同様に,区域1-2には,帝京平成大学の建築が予定されているが,この建物の敷地内における外壁位置,北立面,東立面,建物の高さ(約55m)・幅・奥行き,容積率の最高限度(10分の35),学生ホール・ラウンジ等の位置等は既に決定している。さらに,区域4については,建物の外壁位置,立面,建物の高さ(55m)・幅・奥行き,容積率の最高限度(10分の56)が,区域5についても,建物の外壁位置,立面,建物の高さ(110m)・幅・奥行き,容積率の最高限度(10分の56)が既に決定している(以上,別紙3参照)。

(3)以上のように,本件変更地区計画は,まず,開発許可を要する時に開発許可の要件となり,そして建築確認を要する時には建築確認の要件としての規制の効力を有しているところ,本件地区計画の区域では,既に開発行為が行われること,建築行為が行われることが確定しているから,変更地区計画時点で,既に特定個人の権利義務に直接的変動を及ぼす具体的な制約であるといえる。

 さらに,本件地区計画では,建築物の外壁位置,北立面,東立面,建物の高さ(約55m)・幅・奥行き,容積率の最高限度,学生ホール・ラウンジ等の位置等は既に決定している点で,相当具体的な地区計画であるから,通常の地区計画以上に,特定個人の権利義務に直接的変動を及ぼす具体的な制約であるといえる。

3 「建築確認や開発許可」の段階以前において,地区計画の違法性を争わせる必要があること。

 建築確認や開発許可を争う段階にならないと地区計画を争うことを認めないのであれば,地区計画の内容を信じて土地を取得しようとする者にとって手遅れとなる可能性が存する(本件ではすでに土地を取得しており,もはや不意打ちであるが)。

 したがって,少なくとも土地取得者に対する法的拘束力が伴う「地区整備計画のある地区計画」の場合には,地区計画決定段階においてその違法性を争わせる必要がある。

 また,建築確認の段階で,民間確認機関に地区計画の違法性(裁量逸脱性)を審査させることを求めるのは,著しく困難である。

 すなわち,建築確認取消の審査請求においては,本地区計画区域内だけ特別に緩和された建物高さ,容積率等は,所与の前提として扱われ,当該建物が緩和された容積率,建物高さに適合しているか否かにより適法違法の審査が行われるのみである。

 以上のことから,本件変更地区計画は,一定範囲の地域等を対象とするものの,その法的拘束力は不特定多数者に向けられた一般的抽象的な制約ではなく,特定個人の権利義務に直接的変動を及ぼす具体的な制約といってよいだけではなく,さらに「建築確認や開発許可」の段階以前において,地区計画の違法性を争わせる必要が認められる。

 故に,本件変更地区計画決定には処分性が肯定されなければならない。

第4 本件変更地区計画決定の取消訴訟の原告適格

1(1)本件変更地区計画区域は,原告らが区画道路を挟んで隣接する部分において再開発等促進区でもある。

 そして,都市計画法第13条第1項14号ロによると,再開発等促進区を定める地区計画を定める場合は,「第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域については,再開発等促進区の周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」と規定されており,地区計画対象地周辺の低層住宅を所有・居住する者に対して,「良好な住居の環境」の利益を保護すべきとされている。

(2)ここで注意すべきは,上記「良好な住居の環境」は,第一種低層住居専用地域の場合に保護される利益である「低層住宅に係る良好な住居の環境」(都市計画法第9条第1項)の意義とは異なる(都市計画法第13条第1項14号ロの「良好な住居の環境」は,専ら一般的な公益の中に吸収解消されず,個々人の個別的利益として保護すべきである。),という点である。

 すなわち,第一種低層住居専用地域における「良好な住居の環境」(都市計画法第9条第1項)は,「地域」という広がりを持つ性質に照らし,あくまで一般的公益といわざるを得ないが,都市計画法第13条第1項14号ロにおいて考慮されるべき「周辺の低層住宅」は,地区計画の影響を直接に受ける客体であることが想定されており,あくまで限定された客体であるため,ここで保護されるべき「良好な住居の環境」は,一般的公益の保護実現を目的として機能することによる反射的利益を超え,もはや個々人の個別的利益と解すべきである。

(3)以上のことから,再開発等促進区の周辺の第一種ないし第二種低層住宅に係る「良好な住居の環境」を享受する利益は,「法律上の利益」(行訴法第9条第1項)に該当し,その主体である「周辺の低層住宅」の所有者ないし居住者に本件変更地区計画の原告適格が認められると解すべきである。

 それでは,原告らは上記「周辺の低層住宅」の居住者に該当するか。

 この点,本地区計画の地域は第1種低層住居専用地域ではないものの,原告らの居住する杉並区高円寺北1丁目は第1種低層住居専用地域に指定されているから,都市計画法第13条第1項14号ロの「第1種低層住居専用地域…については」に当たるといえる。そして,原告らは,本件変更地区計画の対象地と区画道路を隔てて居住している(別紙1参照)のであるから,本件変更地区計画のとおり緩衝帯型オープンスペースの設置がされない場合,①隣地の大規模建物から圧迫感を受け,また②いわゆる日照被害(別紙3に示される本件地区計画変更案記載の建物が建築された場合,原告A及び原告Bの住居は,甲1号証に示されるように,冬至において1時間半~2時間日影が生ずることが明らかである)を被り(原告Aが住宅屋上に設置する太陽光発電も著しく限られることとなる),③隣地からの騒音によって生活が妨害され,④通風が阻害され,⑤隣地において大火災や大地震等の災害が発生した際に原告らの生命・身体に被害を受けるおそれがある等,「良好な住居の環境」に対し,反復・継続した著しい影響を直接的に受けうる。

 したがって,原告らはいずれも「周辺の低層住宅」(同法第13条第1項14号ロ)の所有者ないし居住者に該当することは明らかである。

 以上のことから,原告らは「周辺の低層住宅」の所有者ないし居住者に該当し,本件変更地区計画の原告適格が認められる。

第4 本件変更地区計画決定の違法性(裁量権逸脱濫用)

1 地区計画決定における行政裁量にも限界があること

 都市計画法は,地区計画について,「地区施設」(ここには『緩衝帯型オープンスペース』も含まれる。)を都市計画に定めるものとし(同法第12条の5第2項),また,地区整備計画について,「地区計画の目的を達成するために必要な」場合,「地区施設の配置及び規模」を定める(同法第12条の5第7項)としている。

 そして,地区計画は,「建築物の建築形態,公共施設その他の施設の配置等からみて,一体としてそれぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し,開発し,及び保全するための計画」(同法第12条の5第1項)であり,また地区計画を定めるにあたっては,「公共施設の整備,建築物の建築その他の土地利用の現状及び将来の見通しを勘案し,当該区域の各街区における防災,安全,衛生等に関する機能が確保され,かつ,その良好な環境の形成又は保持のためその区域の特性に応じて合理的な土地利用が行われることを目途」(同法第13条第1項14号柱書き)とされなければならないと規定されている。

 さらに,本件のような再開発等促進区を定める地区計画の場合には,「土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の増進とが図られることを目途として,一体的かつ総合的な市街地の再開発又は開発整備が実施されることとなるように定めること」(同法第13条第1項14号ロ)と規定されている。

 しかし,何が「区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境」(同法第12条の5第1項)で,何が「土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の増進」(同法第13条第1項14号ロ)であるか否かについては,一義的に明らかとなるわけではない。したがって,上記基準に従って地区施設(『緩衝帯型オープンスペース』も含まれる。)の規模,配置等に関する事項を定めるにあたっては,当該地区施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で,都市政策的,専門技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。

 もっとも,このように行政に広範な裁量を認めざるを得ない場合であっても,計画の決定又は変更における裁量権行使の前提として,Ⅰ)その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,Ⅱ)事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる(参照・最高裁2006年11月2日第一小法廷判決・民集60巻9号3249頁)。

2 本件変更地区計画決定が行政裁量権の逸脱濫用にあたること

(1)本件変更地区計画決定について,決定の基礎とされた重要な事実に誤認があるか否かは,これまで原告らの質問等に対して,被告が事実関係を明らかにしないことから現在は不明である。

 しかし,被告が事実関係を明らかにしない合理的な理由は全くないにもかかわらず被告が事実関係を明らかにしない以上,重要な事実の基礎に被告の誤認が認められる可能性は高い(たとえば,原告らが2008年11月27日に,風害・景観等周辺住民への配慮を東京都に要請している点(甲2号証の1)に関して,東京都は2008年12月24日付の回答書(甲2号証の2)において,大要,①事業者の調査によれば植栽等の対策を行なうことによって風環境が概ね改善されると,都としては確認した,②検証結果についても,今後事業者から住民に説明される様にしたい,と回答している。しかし,訴え提起時点において,原告らに対していまだに検証結果は明らかにされていない。

 そもそも,このような回答は事業者への信頼を大前提としているが,事業者が自らの着工に不利な調査結果を作成するはずがなく,東京都がこれらの事業者による風環境の調査についてなんらの根拠なく地区計画の基礎としているのであれば,重大な問題である。)。

 以上のこれら重要な事実の基礎に誤認があるか否かについては,被告から本件処分の内容,処分の根拠となる法令の条項,処分の原因となる事実その他処分理由を明らかにする資料の提出がなされた段階で,明らかにしていく予定である。

(2)また,事実に対する評価についても,被告は同様に判断根拠を明確にしておらず,同様に被告の主張を待って今後裁判の中で明らかにしていきたい。

(3)さらに被告は,以下のとおり,判断過程において考慮すべき事情を考慮していないことが,明かである。

 まず,同法第13条第1項14号ロによれば,被告は本件変更地区計画の決定にあたって,再開発等促進区の周辺の低層住宅(第一種低層住居専用地域等)に係る良好な住居環境への支障がないよう考慮しなければならない。

 また,被告は,地区計画を都市計画に定める場合,都市の住民が健康で文化的な都市生活を享受することができるよう配慮しなければならない(同法第13条第5項,同条第2項)。

 かかる規定からすれば,被告は,第1種低層住居専用地域に居住する原告ら再開発等促進区の周辺の低層住宅の良好な住居環境の保護に支障がないように十分考慮し,地区計画を定めなければならないはずである。にもかかわらず,被告は原告らの「良好な住居環境」への影響について,全く考慮していない。

 被告が原告らの「良好な住居環境」への影響を全く考慮していないことを基礎付ける理由について。

(ア)まず,「中野駅周辺まちづくりガイドライン2007」は,警察大学校等跡地を中心とした土地利用ないし都市基盤整備を誘導するものであり(同ガイドライン1頁),ガイドライン制定以降の地区計画等の決定がなされる場合も予定している。

 また,本件変更地区計画における「地区計画の目標」においても,「まちづくりガイドラインを策定し,・・・地区で一体の開発整備を推進する。」と記載され,「まちづくりガイドライン」を前提としている。

 この点,「中野駅周辺まちづくりガイドライン2007」は,原告らの居住地と区域1との間に緩衝帯型オープンスペースの設置を計画していた(同ガイドライン45頁)。

 そして,この緩衝帯型オープンスペースに関し,同ガイドライン43頁は,「杉並区に隣接する西側隣地境界付近には,適切なオープンスペースを設けるなどにより,周辺環境との調和を図るとともに,緩衝帯としての機能確保を図る。」とし,杉並区に隣接する西側隣地境界付近に緩衝帯型オープンスペースの設置を予定していたことが明かである。

 このようなガイドラインが存在する以上,被告が同ガイドラインと異なる地区計画を作成する場合は,住民らに対して相当の説明責任を尽くす必要がある。

 それ故,本件の様に行政からの説明がない場合は,被告が緩衝帯型オープンスペースの設置,すなわち「区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境」(都市計画法第12条の5第1項)について考慮しなかったと言わざるをえない。

(イ)次に,この緩衝帯型オープンスペースは,その設置目的が,対象区域と隣接する杉並区高円寺北の住居の環境との調和にあることからすると,再開発等促進区について規定する都市計画法第13条第1項14号ロが「周辺の低層住宅に係る良好な住居環境への支障がないように定めること」と規定することの具体化として,緩衝帯型オープンスペースの設置が考慮されたものと考えられる。

 したがって,この緩衝帯型オープンスペースを合理的な理由もなしに設けないのは,同法第13条第1項14号ロの「良好な住居環境への支障がないように定めること」を全く無視するものである。

(4)以上のことから被告は,本件変更地区計画決定の際に「区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境」(同法第12条の5第1項)を考慮すべきであるにも考慮していないのであり,裁量権の逸脱が認められ,本件変更地区計画決定は違法である。

第5 確認の利益の存在

 原告らは,本件変更地区計画決定に処分性が認められないのであれば,行訴法第4条後段に基づいて本件変更地区計画決定違法確認の訴えを行なう。

2 即時確定の現実的必要性(紛争の成熟性)

(1)「中野駅周辺まちづくりガイドライン2007」に反して,原告らの居住地と本件変更地区計画対象地との間に緩衝帯型オープンスペースが設置されない場合,原告らは①隣地の大規模建物から圧迫感を受け,また②いわゆる日照被害を被り(太陽光発電も著しく限られる),③隣地からの騒音によって生活が妨害され,④通風が阻害され,⑤隣地において大火災や大地震等の災害が発生した際に原告らの生命・身体に被害を受けるおそれがある等,「良好な住居の環境」に対して,反復・継続した著しい影響を直接的に受けうる。

(2)計画段階において緩衝帯型オープンスペースの設置が予定されていない場合,土地所有者(区域1)が自ら進んで緩衝帯型オープンスペースを設置するはずがなく,開発許可が出た段階で取消訴訟を行なってもいわゆる執行不停止の原則ゆえに,もはや救済上手遅れになる可能性が高い(執行停止の要件は厳格であり,ほとんど認められない。)。

 加えて,裁判が長期化する可能性も高く,開発許可が出た段階での取消訴訟しか認めないのであれば,いわゆる事情判決がなされ,原告らの目的が達成されない可能性が高い。

 しかもこの段階で係争するとしても,争点は開発許可の違法性ではなく,もっぱら地区計画の違法性が問題となるのであり,現段階で係争できるとすることが合理的である。

 故に,開発許可が出た段階ではなく,計画段階で地区計画の違法確認の訴えを認める必要が高い。

 以上のことから,本件変更地区計画決定違法確認訴訟について,確認の利益が認められる。

第6 結論

 以上,本件変更地区計画決定は,被告の裁量権を逸脱した違法があり,直ちに取り消されるべきである。

以上 

添付資料

1 訴状副本                    1通

2 証拠説明書                 各1通

3 甲号証(写)                 各1通

4 訴訟委任状                   3通

PC0905a 原告訴状の補正(公園)

2009年(平成21年)6月12日

東京地方裁判所民事3部 御中

原告ら訴訟代理人

弁 護 士  日置 雅晴
同      富田 裕
同      花澤 俊之

訴状の補正

 平成21年5月27日付けの補正命令について,以下の補正を行う。

第1 原告らと被告との間の法律関係の具体的内容

 東京都震災対策条例47条1項の規定に基づき,東京都知事は,震災時に拡大する火災から都民を安全に保護するため,広域避難場所を指定している。

 杉並区高円寺南5丁目,同区高円寺北1丁目,中野区新井1,2丁目,同区中央2~5丁目,同区中野1~5丁目,同区東中野2丁目,同区本町4,6丁目,同区野方1丁目に居住する住民に関しては,「中野区役所一帯」(総面積229,100㎡,避難有効面積102,900㎡)が,広域避難場所に指定されている。ここで,広域避難場所の総面積229,100㎡とは,この中にある建物も含んだ面積であり,避難者は,避難時において,広域避難場所の中の避難有効面積102,900㎡の中に収容されることが予定されている。

 中野中央公園は,中野区役所一帯の広域避難場所の有効面積の中核を構成しており,中野区の都市計画決定により種別,位置,面積等が定められている。

 本訴訟の原告らは,原告A及びDが杉並区高円寺北1丁目に居住し,原告Bが中野区新井2丁目に居住し,原告Cが中野区野方1丁目に居住しているが,これら原告はいずれも,中野区役所一帯を広域避難場所に指定された者であり,震災時において,中野区が都市計画決定した中野中央公園に避難することが予定されている者である。

 以上から,原告らと被告との間には,原告らはいずれも,震災時において被告が都市計画決定をした中野中央公園に避難することが予定されているという内容の法律関係が存在する。

第2 確認の利益

①原告らは,確認訴訟を行う他に適切な訴訟手段がなく(補充性),②原告らの災害時の避難について現に不安が生じており(紛争の成熟性),③確認対象として本件都市計画決定の違法を確認することが紛争解決に適切であること(対象の適格性)から,原告らには,確認の利益がある。以下,詳述する。

1 原告らは,確認訴訟を行う他に適切な訴訟手段がないこと(補充性)

(1)本件都市計画決定を争うには公法上の法律関係に関する確認訴訟しかないこと

 行政庁の行為に対して個人が救済を求める場合,抗告訴訟(行政事件訴訟法3条1項)か,当事者訴訟(行政事件訴訟法4条後段)かのいずれかの訴訟類型で救済を求めることが考えられる。

 本件において,抗告訴訟により,都市計画決定の取消訴訟を提起して争うことができるならば,都市計画決定の違法を確認するよりもより直接的であり,紛争解決に資する。

 しかし,都市計画決定の違法性を抗告訴訟により争えないとなると,当事者訴訟による解決を図るしかない。

 ここで,抗告訴訟とは,「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」(行政事件訴訟法3条1項)であり,当事者訴訟とは,「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」(同法4条後段)とされている。そして,「公権力の行使」(行政事件訴訟法3条1項)とは,国又は公共団体の行為のうち,その行為によって,「直接国民の権利義務を形成し,またはその範囲を確定することが法律上認められているもの」(処分)をいうとされている(最高裁判所昭和39年10月29日判決)。

 本件訴訟の対象である被告の都市計画公園の都市計画決定は,都市計画公園の種別,名称,区域,面積等を変更するものであるが,住民の権利義務に直接影響を与えるものではないから,「直接国民の権利義務を形成し,またはその範囲を確定するもの」ではないため,公権力の行使(処分)に当たらず,抗告訴訟の対象とはならない。判例も一般的抽象的な都市計画の処分性を否定している(用途地域の指定について最高裁判所昭和57年4月22日第1小法廷判決,高度地区の指定について最高裁判所昭和57年4月22日第1小法廷判決)。

 そこで,本件訴訟の対象である被告の都市計画決定を争うには,「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」によるよりなく,具体的には,被告の都市計画決定の違法確認訴訟を提起することになる。

(2)他の処分の取消訴訟において都市計画決定の違法を争うことはできないこと

 都市計画段階で処分性がないとした場合,本来の公園予定地に建築物が実際に建てられる場合において個別の建築確認の取消を争うことも考えられる。

 しかし,建築確認の違法を争う場合,その審査対象は,建築基準関係規定(建築基準法6条1項柱書,同法施行令9条)への適合性が対象となるにすぎず,建築確認の取消において本件都市計画決定の適法性を争うことはできない。仮に,建築確認取消の審査請求及び訴訟において,先行行為の違法として争いうるとしても,建築確認はその多くが民間建築確認機関によりなされているところ,民間建築確認機関相手に行政が行った都市公園の都市計画決定の違法を問うことは妥当性に欠ける。

 そうであるならば,紛争解決のためには,都市計画決定を行った行政庁を相手として,現時点で都市計画決定自体を争うことができるとすることが必要不可欠である。

2 原告らの災害時の避難について現に不安が生じていること(紛争の成熟性)

(1) 紛争の成熟性は広く認められるべきこと

 第159回国会 衆議院法務委員会 会議録第22号(平成16年5月7日),によると,行政事件訴訟法4条で確認訴訟を明示した趣旨に関し,確認訴訟の活用を広く認めるために明示したとされ,具体例として,土地区画整理計画,通達,行政指導等に対する確認訴訟の可能性が述べられている(甲1)。そして,衆議院法務委員会は,平成16年5月14日,「公法上の法律関係に関する確認の訴えについては,権利義務などの法律関係の確認を通じて,取消訴訟の対象となる行政の行為に限らず,国民と行政との間の多様な関係に応じた実効的な権利救済を可能とする趣旨であることについて,周知徹底を努めること。」との附帯決議を行い,同委員会は,最高裁判所がこのことについて格段の配慮をすべきとしている(甲2)。

 また,参議院法務委員会 会議録第21号(平成16年6月1日)においても,行政事件訴訟法4条に関し,これまで確認訴訟が十分活用されてこなかったことの反省として,確認訴訟を明示したこと,行政計画,行政立法,通達,行政指導に対する確認訴訟の可能性が述べられている(甲3)。そして,参議院法務委員会は,平成16年6月1日,「公法上の法律関係に関する確認の訴えについては,これまでの運用にとらわれることなく,その柔軟な活用を権利義務などの法律関係の確認を通じて,取消訴訟の対象となる行政の行為に限らず,国民と行政との間の多様な関係に応じた実効的な権利救済を可能とする趣旨であることについて,周知徹底を努めること。」との附帯決議を行い,同委員会は,最高裁判所がこのことについて格段の配慮をすべきであるとしている(甲2)。

 このような衆議院,参議院の法務委員会でのやりとり及び附帯決議からすれば,本件のような都市計画決定という行政計画についての行政事件訴訟法4条後段に基づく確認訴訟については,紛争の成熟性を広く認め,確認の利益の存在をなるべく広く認めるべきである。

(2) 原告らの災害時における避難に現に不安が生じていること

ア 有効避難面積が大幅に減少すること

 中野区みどりの基本計画を見ると,「中野区役所一帯広域避難場所の中核として,警察大学校等移転跡地に約4ヘクタールの公園を都市計画決定し,整備推進に努めます。」と記載され,4ヘクタールの公園を本件敷地において都市計画決定することが明記されている。

 しかし,被告中野区が平成19年4月6日付中野区告示で告示した中野中央公園は,この広域避難場所として位置づけられているにもかかわらず,その面積は,約1.5ヘクタールしかなく,中野区みどりの基本計画で明示している4ヘクタールの面積を大幅に下回ったものであった。

 第1で記載した中野区役所一帯の中の避難有効面積の中に中野中央公園の面積4ヘクタールが含まれているか否かについては,区が情報開示をしないため明らかではない。

 しかし,仮に,現在の中野区役所一帯の避難有効面積102,900㎡が,中野中央公園の面積4ヘクタールを含んだ数値であると仮定すると,102,900㎡のうち約40%である4ヘクタール,すなわち,40,000㎡を中野中央公園が占めていることになる。この中野中央公園の面積が1.5ヘクタールに変更されると,避難有効面積は,77,900㎡(102,900㎡-40,000㎡=77,900㎡)と,当初の有効避難面積の75%程度に縮小されてしまう。

 これは,原告らが震災等の災害時において,避難し,収容されることが予定だれている場所の面積が,現況の有効避難面積と比べ,75%程度に減少することを意味している。

イ 有効避難面積の減少は避難上深刻であること

 東京都の地域防災計画 震災編の236頁(第3部 災害応急・復旧対策計画,第9章 避難者対策,第2節 避難場所・避難道路の指定及び安全化,1 避難場所・避難道路の指定,(1)避難場所の考え方)によると,「避難場所は,地区割当計画の避難計画人口に対して,避難場所内の建物などを除き,震災時に拡大する火災によるふく射熱の影響を考慮して算定した利用可能な避難空間を,原則として1人あたり1㎡確保する。」と,1人あたり1㎡確保することとされている。

 現況の中野区役所一帯の広域避難場所について,この広域避難場所を利用する住民の数が96,000人であることから,1人当たりの有効避難面積は,102,900㎡÷96000人=1.07㎡/人とされている。

 ここで,仮に,有効避難面積が2.5ヘクタール減少し,77,900㎡になったとすると,77,900㎡÷96000人=0.81㎡/人となり,国土交通省の防災マニュアルの数値を大幅に下回ることになる。

 1人当たり1㎡とは,混雑時の駅のプラットホームの人口密度であり,これでは避難者が動き回ることがほとんどできない最低限の広さであるところ,1人当たりの有効避難面積が1㎡を割り込むことになれば,もはやこの場所に避難することは不可能と言わざるをえない。

 そして,東京都23区の現在の1人当たりの避難有効面積は,平均で3.4㎡/人である。これに対し,中野区の1人当たりの避難有効面積は1.2㎡/人であり,23区平均の約3分の1,23区中で22番目と極めて低い水準にある。

 もともと中野区の1人当たりの有効避難面積が小さい上に,本件の都市計画決定は,さらに,1人当たりの有効避難面積を縮小させるものであり,住民にとって有効避難場所の縮小は深刻である。

ウ 不安定な民有空地では有効避難面積を確保できないこと

 仮に,本件都市計画決定の後も広域避難場所「中野区役所一帯」の有効避難面積102,900㎡が減少することがなく,102,900㎡のままであるとしても,有効避難面積の中核となる中野中央公園の広さが1.5ヘクタール(有効避難面積102,900㎡の14.5%)であることからすれば,中野中央公園以外の部分の大半,すなわち,有効避難面積の85%程度は,民間が所有管理する民有空地となることが予想される。

 そして,このような民有空地の場合,将来にわたって,売却されたり,転用されたりして建築物が建てられる可能性があり,震災等有事の際に避難の用に供されることの担保がない。

 具体的には,民有空地を所有する事業者が,将来的に民有空地上に建築物の建設を企図した場合,行政がこれを拒むことは困難であり,建築基準法に適合する限りにおいて建築確認がなされ,民有空地上に建築物が建てられ,有効避難面積の減少が避けられないことになる。

 そうだとすれば,仮に,一時的に民有空地により有効避難面積が確保されているとしても,将来的に有効避難面積を確保できないことが予想され,そのことは,公有地としての4ヘクタールの中野中央公園を確保できない時点において決定づけられるから,中野中央公園の面積が1.5ヘクタールであると都市計画決定されたことにより,原告らの避難の安全が現に害されていることになる。

エ 現時点での救済を認めないと後になって救済を受けられないこと

 現時点において,4ヘクタールの都市計画公園となるはずであった部分には建築物が建てられることが予定されている。

 そこで,これらの建築物が建てられる段階で公園の面積を確保するため建築確認の取消を争えるのではないかの問題があるが,複数の建築物のうちどの建築物の建築行為が全体の公園面積との関係で違法となるのか不明確であるだけでなく,建築行為が全体の公園面積との関係で違法となりうることは考えにくく,建築段階で適切な救済が得られる見通しもない。

 そして,いったん本来公園となる部分に建物が建てられてしまうと,もはや訴えにより救済されえないことから,現時点において,都市計画公園の都市計画決定の違法を確認する必要がある。

 ア~エより,本件において,原告らの災害時における避難に現に不安が生じており,紛争の成熟性がある。

3 本件都市計画決定の違法を確認することで紛争解決できること(対象の適格性)

(1) 都市計画法は原告らに震災等の被害から免れる利益を保護すること

 公園は,都市計画の一つであり(都市計画法14条1項2号),都市計画法に基づく都市計画決定により定められる(都市計画法19条)。本件の中野中央公園も都市計画法に基づく都市計画決定により定められる。

 仮に,都市計画法がそもそも原告らの避難の安全の利益を保護していないなら,原告らがこの都市計画法に基づく中野中央公園の都市計画決定の違法確認の訴えを提起しても,原告らは保護されえないことになる。

 そこで,都市計画法が,そもそも原告らの避難の安全の利益を保護しているか否かを検討する。

 まず,都市計画法を見ると,同法は,都市の健全な発展と秩序ある整備を図り,もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とし(同法1条),都市計画の基本理念の一つとして,健康で文化的な都市生活を確保すべきことを定めており(同法2条),都市計画区域については,都市計画に必要な公園を定めるものとし(同法11条1項2号),都市計画区域について定められる都市計画は,当該都市の特質を考慮して,土地利用,都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを,一体的かつ総合的に定めなければならないとし,この場合においては,当該都市における自然的環境の整備又は保全に配慮しなければならないとし(同法13条1項柱書),公園も含む都市施設は,土地利用,交通などの現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めることとされ(同法13条1項11号),中でも防災街区整備地区計画については,当該区域の各街区が火事又は地震が発生した場合の延焼防止及び避難上確保されるべき機能を備えるとともに,土地の合理的かつ健全な利用が図られることを目途として,一体的かつ総合的な市街地の整備が行われることとなるように定めることとしている(同法13条1項15号)。

 そして,都市計画区域について定められる都市計画は,当該都市の住民が健康で文化的な都市生活を享受することができるように,住宅の建設及び居住環境の整備に関する計画を定めなければならないとしている(同条2項)。

 また,都市計画法に関連する法令として,現在及び将来の都民の生命,身体及び財産を震災から保護することを目的とする東京都震災対策条例は,知事は,震災時に拡大する火災から都民を安全に保護するため,広域的な避難を確保する見地から必要な避難場所をあらかじめ指定しなければならないとし(同条例47条1項本文),また,知事は,広域的な避難を確保する見地から震災時に都民が避難場所に安全に避難するため必要な避難道路をあらかじめ指定しなければならないとし(同条例48条),避難場所及び避難道路の周辺に存する建築物その他の工作物の不燃化の促進に努めなければならないとしている(同条例49条)。

 さらに,東京都震災対策条例施行規則は,上記の避難場所は,周辺の市街地構成の状況から大震火災時のふく射熱に対して安全な面積を有する場所であること及び避難場所の内部において震災時に避難者の安全性を著しく損なうおそれのある施設が存在しないことという条件を満たしていなければならないとし(同条例施行規則23条),上記の避難道路は,避難場所と当該避難場所に避難しなければならない人の居住地との距離が長く,又は火災による延焼の危険性が著しく,自由に避難することが困難な地域について指定するものとし,幅員15m以上のものとするとしている(同条例施行規則24条)。

 そして,知事は,上記の避難場所及び避難道路を指定し,又は取消したときは,速やかに告示しなければならないとしている(同条例施行規則25条)。

 以上のような公園の都市計画決定に関する都市計画法及びその関係法令の規定の趣旨,目的及び避難者の生命身体という保護されるべき利益の性質を考慮すれば,都市計画法は,震災時に拡大する火災等によって生命又は身体に被害を受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害から免れる利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと考えるべきである。

 そうだとすると,「中野区役所一帯」が,広域避難場所に指定されている住民に関しては,都市計画法上,広域避難場所に安全に避難する利益が個別的利益として保護されていることとなる。

 そして,原告らはいずれも,この「中野区役所一帯」を広域避難場所としているから,原告らは,中野区役所一帯に安全に避難する利益が個別的利益として保護されている。

 そうだとすると,都市計画法の趣旨からすれば,原告らは,都市計画法に基づく中野中央公園の都市計画決定を争って保護されうる。

(2) 本件都市計画決定の違法を確認することで紛争を解決できること

 広域避難場所の中核である中野中央公園の面積を1.5ヘクタールとする都市計画公園の都市計画決定が,4ヘクタールの公園の都市計画決定を規定する中野区みどりの基本計画に違反し,違法であることの確認がなされた場合,行政事件訴訟法41条1項,33条1項によれば,都市計画決定を行った行政庁たる中野区は,その判断に拘束されることになる。

 そうだとすれば,本件都市計画決定自体の違法が確認されれば,中野区は,本件都市計画決定を変更し,中野中央公園の面積を中野区みどりの基本計画に適合した面積に改めることになる。

 そして,原告らにとって,中野中央公園の面積が4ヘクタールに変更されれば,少なくとも1人当たりの有効避難面積1㎡を恒久的に確保できることになり,最低限の避難の安全性を図ることができることになる。

 したがって,原告らは,中野中央公園の都市計画決定の違法を確認の対象とすることで紛争解決を図ることができるものというべきである。

 この帰結は,東京地方裁判所平成20年5月29日判決が,震災時に広域避難場所を利用することが予定されている住民について土地区画整理事業の施行認可取消を争う法律上の利益(原告適格)を認めていることからも支持される。

4 まとめ

 以上,①原告らは,他に適切な訴訟手段がなく(補充性),②避難について現に不安が生じており(紛争の成熟性),③本件都市計画決定の違法を確認することで紛争解決を図れること(対象の適格性)から,原告らには,確認の利益がある。

PC0905a 原告訴状(公園)

訴状

2009年(平成21年)5月21日

東京地方裁判所 御中


原告ら訴訟代理人

(中略)

(送達場所)
  〒162-0825 東京都新宿区神楽坂三丁目2番地5号SHKビル4階
      神楽坂キーストーン法律事務所(送達場所)
             電 話 03-5228-0342   FAX 03-5228-0392

(中略)

〒164-8501 東京都中野区中野四丁目8番1号

被告(処分庁)  中野区

代表者区長    田中 大輔

都市計画決定違法確認請求事件

訴訟物の価額    640万円

貼用印紙額     3万6000円

請求の趣旨

1 中野区が平成19年4月6日付中野区告示で告示した中野中央公園の面積を約1.5haとした都市計画決定(中野区告示第52号)が,違法であることを確認する

2 訴訟費用は被告らの負担とする

との判決を求める。

請求原因

第1 当事者

 原告らは,中野区警察大学校等跡地(以下,「本件敷地」という。)に隣接あるいは近接して居住あるいは不動産を所有し,周辺地域で火災が発生した場合には,中野中央公園へ避難することが予定されているとともに,本件敷地に建築物が建設されることにより日照を阻害される畏れがある。(甲1)。  

 被告中野区は,平成19年4月6日付で中野中央公園の面積を約1.5haとする都市計画決定を行った(以下,「中野中央公園変更の都市計画決定」という。)。

第2 中野中央公園変更の都市計画決定(平成19年4月6日付中野区決定)の概要

 東京都市計画公園中の中野第2・2・32号中野中央公園を下記に変更。

 種別 近隣公園

 名称 第3・3・109号 中野中央公園

 位置 中野区中野四丁目地内

 面積 約1.5ha
 
第3 中野中央公園の都市計画決定が中野区みどりの基本計画に反し,違法であること

 都市計画法第18条の2第4項は,「市町村が定める都市計画は,基本方針に即したものでなければならない。」と規定している。ここで,「基本方針」とは,都市計画法第18条の2第1項に規定する「市町村の都市計画に関する基本的な方針」,すなわち都市計画マスタープランのことであり,本条は,市町村の個々の都市計画決定が,市町村で定める都市計画マスタープランに即したものでなければならないことを意味している。

 そして,「中野区みどりの基本計画」は,都市緑地法第4条の2に規定する「緑地の保全及び緑化の推進に関する基本計画」として策定されたものであるが,その計画の法的性格は,都市計画マスタープランの「環境と共生するまちづくり」分野のみどりに関する個別計画の性格を持つもの,すなわち,都市計画マスタープランの一部をなすものとされている。

 したがって,中野区においては,中野区の定める個々の都市計画は,中野区みどりの基本計画を含む中野区都市計画マスタープランに即したものでなければならないことになる。

 そこで,中野区みどりの基本計画を見ると,「中野区役所一帯広域避難場所の中核として,警察大学校等移転跡地に約4ヘクタールの公園を都市計画決定し,整備推進に努めます。」と記載され,4ヘクタールの広域避難場所としての公園を本件敷地において都市計画決定することが明記されている。

 しかし,被告中野区が平成19年4月6日付中野区告示で告示した中野中央公園は,この広域避難場所として位置づけられているにもかかわらず,その面積は,約1.5ヘクタールしかなく,中野区みどりの基本計画で明示している4ヘクタールの面積を大幅に下回ったものであった。

 そうだとすると,被告中野区が平成19年4月6日付で中野中央公園の面積を約1.5haとした都市計画決定は,中野区みどりの基本計画,すなわち中野区都市計画マスタープランに反するから,「基本方針に則した」ものとはいえず,都市計画法第18条の2第4項に反し,違法であることが明らかである。

第4 結論

 よって,原告らは,被告中野区に対して,都市計画公園変更の都市計画決定が違法であることの確認を求める。


添付書類

1 訴状副本                 1通

2 証拠説明書              各1通

3 甲号証(写)              各1通

4 訴訟委任状               4通

2009年12月3日木曜日

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