2009年12月6日日曜日

PC0905a 原告訴状の補正(公園)

2009年(平成21年)6月12日

東京地方裁判所民事3部 御中

原告ら訴訟代理人

弁 護 士  日置 雅晴
同      富田 裕
同      花澤 俊之

訴状の補正

 平成21年5月27日付けの補正命令について,以下の補正を行う。

第1 原告らと被告との間の法律関係の具体的内容

 東京都震災対策条例47条1項の規定に基づき,東京都知事は,震災時に拡大する火災から都民を安全に保護するため,広域避難場所を指定している。

 杉並区高円寺南5丁目,同区高円寺北1丁目,中野区新井1,2丁目,同区中央2~5丁目,同区中野1~5丁目,同区東中野2丁目,同区本町4,6丁目,同区野方1丁目に居住する住民に関しては,「中野区役所一帯」(総面積229,100㎡,避難有効面積102,900㎡)が,広域避難場所に指定されている。ここで,広域避難場所の総面積229,100㎡とは,この中にある建物も含んだ面積であり,避難者は,避難時において,広域避難場所の中の避難有効面積102,900㎡の中に収容されることが予定されている。

 中野中央公園は,中野区役所一帯の広域避難場所の有効面積の中核を構成しており,中野区の都市計画決定により種別,位置,面積等が定められている。

 本訴訟の原告らは,原告A及びDが杉並区高円寺北1丁目に居住し,原告Bが中野区新井2丁目に居住し,原告Cが中野区野方1丁目に居住しているが,これら原告はいずれも,中野区役所一帯を広域避難場所に指定された者であり,震災時において,中野区が都市計画決定した中野中央公園に避難することが予定されている者である。

 以上から,原告らと被告との間には,原告らはいずれも,震災時において被告が都市計画決定をした中野中央公園に避難することが予定されているという内容の法律関係が存在する。

第2 確認の利益

①原告らは,確認訴訟を行う他に適切な訴訟手段がなく(補充性),②原告らの災害時の避難について現に不安が生じており(紛争の成熟性),③確認対象として本件都市計画決定の違法を確認することが紛争解決に適切であること(対象の適格性)から,原告らには,確認の利益がある。以下,詳述する。

1 原告らは,確認訴訟を行う他に適切な訴訟手段がないこと(補充性)

(1)本件都市計画決定を争うには公法上の法律関係に関する確認訴訟しかないこと

 行政庁の行為に対して個人が救済を求める場合,抗告訴訟(行政事件訴訟法3条1項)か,当事者訴訟(行政事件訴訟法4条後段)かのいずれかの訴訟類型で救済を求めることが考えられる。

 本件において,抗告訴訟により,都市計画決定の取消訴訟を提起して争うことができるならば,都市計画決定の違法を確認するよりもより直接的であり,紛争解決に資する。

 しかし,都市計画決定の違法性を抗告訴訟により争えないとなると,当事者訴訟による解決を図るしかない。

 ここで,抗告訴訟とは,「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」(行政事件訴訟法3条1項)であり,当事者訴訟とは,「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」(同法4条後段)とされている。そして,「公権力の行使」(行政事件訴訟法3条1項)とは,国又は公共団体の行為のうち,その行為によって,「直接国民の権利義務を形成し,またはその範囲を確定することが法律上認められているもの」(処分)をいうとされている(最高裁判所昭和39年10月29日判決)。

 本件訴訟の対象である被告の都市計画公園の都市計画決定は,都市計画公園の種別,名称,区域,面積等を変更するものであるが,住民の権利義務に直接影響を与えるものではないから,「直接国民の権利義務を形成し,またはその範囲を確定するもの」ではないため,公権力の行使(処分)に当たらず,抗告訴訟の対象とはならない。判例も一般的抽象的な都市計画の処分性を否定している(用途地域の指定について最高裁判所昭和57年4月22日第1小法廷判決,高度地区の指定について最高裁判所昭和57年4月22日第1小法廷判決)。

 そこで,本件訴訟の対象である被告の都市計画決定を争うには,「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」によるよりなく,具体的には,被告の都市計画決定の違法確認訴訟を提起することになる。

(2)他の処分の取消訴訟において都市計画決定の違法を争うことはできないこと

 都市計画段階で処分性がないとした場合,本来の公園予定地に建築物が実際に建てられる場合において個別の建築確認の取消を争うことも考えられる。

 しかし,建築確認の違法を争う場合,その審査対象は,建築基準関係規定(建築基準法6条1項柱書,同法施行令9条)への適合性が対象となるにすぎず,建築確認の取消において本件都市計画決定の適法性を争うことはできない。仮に,建築確認取消の審査請求及び訴訟において,先行行為の違法として争いうるとしても,建築確認はその多くが民間建築確認機関によりなされているところ,民間建築確認機関相手に行政が行った都市公園の都市計画決定の違法を問うことは妥当性に欠ける。

 そうであるならば,紛争解決のためには,都市計画決定を行った行政庁を相手として,現時点で都市計画決定自体を争うことができるとすることが必要不可欠である。

2 原告らの災害時の避難について現に不安が生じていること(紛争の成熟性)

(1) 紛争の成熟性は広く認められるべきこと

 第159回国会 衆議院法務委員会 会議録第22号(平成16年5月7日),によると,行政事件訴訟法4条で確認訴訟を明示した趣旨に関し,確認訴訟の活用を広く認めるために明示したとされ,具体例として,土地区画整理計画,通達,行政指導等に対する確認訴訟の可能性が述べられている(甲1)。そして,衆議院法務委員会は,平成16年5月14日,「公法上の法律関係に関する確認の訴えについては,権利義務などの法律関係の確認を通じて,取消訴訟の対象となる行政の行為に限らず,国民と行政との間の多様な関係に応じた実効的な権利救済を可能とする趣旨であることについて,周知徹底を努めること。」との附帯決議を行い,同委員会は,最高裁判所がこのことについて格段の配慮をすべきとしている(甲2)。

 また,参議院法務委員会 会議録第21号(平成16年6月1日)においても,行政事件訴訟法4条に関し,これまで確認訴訟が十分活用されてこなかったことの反省として,確認訴訟を明示したこと,行政計画,行政立法,通達,行政指導に対する確認訴訟の可能性が述べられている(甲3)。そして,参議院法務委員会は,平成16年6月1日,「公法上の法律関係に関する確認の訴えについては,これまでの運用にとらわれることなく,その柔軟な活用を権利義務などの法律関係の確認を通じて,取消訴訟の対象となる行政の行為に限らず,国民と行政との間の多様な関係に応じた実効的な権利救済を可能とする趣旨であることについて,周知徹底を努めること。」との附帯決議を行い,同委員会は,最高裁判所がこのことについて格段の配慮をすべきであるとしている(甲2)。

 このような衆議院,参議院の法務委員会でのやりとり及び附帯決議からすれば,本件のような都市計画決定という行政計画についての行政事件訴訟法4条後段に基づく確認訴訟については,紛争の成熟性を広く認め,確認の利益の存在をなるべく広く認めるべきである。

(2) 原告らの災害時における避難に現に不安が生じていること

ア 有効避難面積が大幅に減少すること

 中野区みどりの基本計画を見ると,「中野区役所一帯広域避難場所の中核として,警察大学校等移転跡地に約4ヘクタールの公園を都市計画決定し,整備推進に努めます。」と記載され,4ヘクタールの公園を本件敷地において都市計画決定することが明記されている。

 しかし,被告中野区が平成19年4月6日付中野区告示で告示した中野中央公園は,この広域避難場所として位置づけられているにもかかわらず,その面積は,約1.5ヘクタールしかなく,中野区みどりの基本計画で明示している4ヘクタールの面積を大幅に下回ったものであった。

 第1で記載した中野区役所一帯の中の避難有効面積の中に中野中央公園の面積4ヘクタールが含まれているか否かについては,区が情報開示をしないため明らかではない。

 しかし,仮に,現在の中野区役所一帯の避難有効面積102,900㎡が,中野中央公園の面積4ヘクタールを含んだ数値であると仮定すると,102,900㎡のうち約40%である4ヘクタール,すなわち,40,000㎡を中野中央公園が占めていることになる。この中野中央公園の面積が1.5ヘクタールに変更されると,避難有効面積は,77,900㎡(102,900㎡-40,000㎡=77,900㎡)と,当初の有効避難面積の75%程度に縮小されてしまう。

 これは,原告らが震災等の災害時において,避難し,収容されることが予定だれている場所の面積が,現況の有効避難面積と比べ,75%程度に減少することを意味している。

イ 有効避難面積の減少は避難上深刻であること

 東京都の地域防災計画 震災編の236頁(第3部 災害応急・復旧対策計画,第9章 避難者対策,第2節 避難場所・避難道路の指定及び安全化,1 避難場所・避難道路の指定,(1)避難場所の考え方)によると,「避難場所は,地区割当計画の避難計画人口に対して,避難場所内の建物などを除き,震災時に拡大する火災によるふく射熱の影響を考慮して算定した利用可能な避難空間を,原則として1人あたり1㎡確保する。」と,1人あたり1㎡確保することとされている。

 現況の中野区役所一帯の広域避難場所について,この広域避難場所を利用する住民の数が96,000人であることから,1人当たりの有効避難面積は,102,900㎡÷96000人=1.07㎡/人とされている。

 ここで,仮に,有効避難面積が2.5ヘクタール減少し,77,900㎡になったとすると,77,900㎡÷96000人=0.81㎡/人となり,国土交通省の防災マニュアルの数値を大幅に下回ることになる。

 1人当たり1㎡とは,混雑時の駅のプラットホームの人口密度であり,これでは避難者が動き回ることがほとんどできない最低限の広さであるところ,1人当たりの有効避難面積が1㎡を割り込むことになれば,もはやこの場所に避難することは不可能と言わざるをえない。

 そして,東京都23区の現在の1人当たりの避難有効面積は,平均で3.4㎡/人である。これに対し,中野区の1人当たりの避難有効面積は1.2㎡/人であり,23区平均の約3分の1,23区中で22番目と極めて低い水準にある。

 もともと中野区の1人当たりの有効避難面積が小さい上に,本件の都市計画決定は,さらに,1人当たりの有効避難面積を縮小させるものであり,住民にとって有効避難場所の縮小は深刻である。

ウ 不安定な民有空地では有効避難面積を確保できないこと

 仮に,本件都市計画決定の後も広域避難場所「中野区役所一帯」の有効避難面積102,900㎡が減少することがなく,102,900㎡のままであるとしても,有効避難面積の中核となる中野中央公園の広さが1.5ヘクタール(有効避難面積102,900㎡の14.5%)であることからすれば,中野中央公園以外の部分の大半,すなわち,有効避難面積の85%程度は,民間が所有管理する民有空地となることが予想される。

 そして,このような民有空地の場合,将来にわたって,売却されたり,転用されたりして建築物が建てられる可能性があり,震災等有事の際に避難の用に供されることの担保がない。

 具体的には,民有空地を所有する事業者が,将来的に民有空地上に建築物の建設を企図した場合,行政がこれを拒むことは困難であり,建築基準法に適合する限りにおいて建築確認がなされ,民有空地上に建築物が建てられ,有効避難面積の減少が避けられないことになる。

 そうだとすれば,仮に,一時的に民有空地により有効避難面積が確保されているとしても,将来的に有効避難面積を確保できないことが予想され,そのことは,公有地としての4ヘクタールの中野中央公園を確保できない時点において決定づけられるから,中野中央公園の面積が1.5ヘクタールであると都市計画決定されたことにより,原告らの避難の安全が現に害されていることになる。

エ 現時点での救済を認めないと後になって救済を受けられないこと

 現時点において,4ヘクタールの都市計画公園となるはずであった部分には建築物が建てられることが予定されている。

 そこで,これらの建築物が建てられる段階で公園の面積を確保するため建築確認の取消を争えるのではないかの問題があるが,複数の建築物のうちどの建築物の建築行為が全体の公園面積との関係で違法となるのか不明確であるだけでなく,建築行為が全体の公園面積との関係で違法となりうることは考えにくく,建築段階で適切な救済が得られる見通しもない。

 そして,いったん本来公園となる部分に建物が建てられてしまうと,もはや訴えにより救済されえないことから,現時点において,都市計画公園の都市計画決定の違法を確認する必要がある。

 ア~エより,本件において,原告らの災害時における避難に現に不安が生じており,紛争の成熟性がある。

3 本件都市計画決定の違法を確認することで紛争解決できること(対象の適格性)

(1) 都市計画法は原告らに震災等の被害から免れる利益を保護すること

 公園は,都市計画の一つであり(都市計画法14条1項2号),都市計画法に基づく都市計画決定により定められる(都市計画法19条)。本件の中野中央公園も都市計画法に基づく都市計画決定により定められる。

 仮に,都市計画法がそもそも原告らの避難の安全の利益を保護していないなら,原告らがこの都市計画法に基づく中野中央公園の都市計画決定の違法確認の訴えを提起しても,原告らは保護されえないことになる。

 そこで,都市計画法が,そもそも原告らの避難の安全の利益を保護しているか否かを検討する。

 まず,都市計画法を見ると,同法は,都市の健全な発展と秩序ある整備を図り,もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とし(同法1条),都市計画の基本理念の一つとして,健康で文化的な都市生活を確保すべきことを定めており(同法2条),都市計画区域については,都市計画に必要な公園を定めるものとし(同法11条1項2号),都市計画区域について定められる都市計画は,当該都市の特質を考慮して,土地利用,都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを,一体的かつ総合的に定めなければならないとし,この場合においては,当該都市における自然的環境の整備又は保全に配慮しなければならないとし(同法13条1項柱書),公園も含む都市施設は,土地利用,交通などの現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めることとされ(同法13条1項11号),中でも防災街区整備地区計画については,当該区域の各街区が火事又は地震が発生した場合の延焼防止及び避難上確保されるべき機能を備えるとともに,土地の合理的かつ健全な利用が図られることを目途として,一体的かつ総合的な市街地の整備が行われることとなるように定めることとしている(同法13条1項15号)。

 そして,都市計画区域について定められる都市計画は,当該都市の住民が健康で文化的な都市生活を享受することができるように,住宅の建設及び居住環境の整備に関する計画を定めなければならないとしている(同条2項)。

 また,都市計画法に関連する法令として,現在及び将来の都民の生命,身体及び財産を震災から保護することを目的とする東京都震災対策条例は,知事は,震災時に拡大する火災から都民を安全に保護するため,広域的な避難を確保する見地から必要な避難場所をあらかじめ指定しなければならないとし(同条例47条1項本文),また,知事は,広域的な避難を確保する見地から震災時に都民が避難場所に安全に避難するため必要な避難道路をあらかじめ指定しなければならないとし(同条例48条),避難場所及び避難道路の周辺に存する建築物その他の工作物の不燃化の促進に努めなければならないとしている(同条例49条)。

 さらに,東京都震災対策条例施行規則は,上記の避難場所は,周辺の市街地構成の状況から大震火災時のふく射熱に対して安全な面積を有する場所であること及び避難場所の内部において震災時に避難者の安全性を著しく損なうおそれのある施設が存在しないことという条件を満たしていなければならないとし(同条例施行規則23条),上記の避難道路は,避難場所と当該避難場所に避難しなければならない人の居住地との距離が長く,又は火災による延焼の危険性が著しく,自由に避難することが困難な地域について指定するものとし,幅員15m以上のものとするとしている(同条例施行規則24条)。

 そして,知事は,上記の避難場所及び避難道路を指定し,又は取消したときは,速やかに告示しなければならないとしている(同条例施行規則25条)。

 以上のような公園の都市計画決定に関する都市計画法及びその関係法令の規定の趣旨,目的及び避難者の生命身体という保護されるべき利益の性質を考慮すれば,都市計画法は,震災時に拡大する火災等によって生命又は身体に被害を受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害から免れる利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと考えるべきである。

 そうだとすると,「中野区役所一帯」が,広域避難場所に指定されている住民に関しては,都市計画法上,広域避難場所に安全に避難する利益が個別的利益として保護されていることとなる。

 そして,原告らはいずれも,この「中野区役所一帯」を広域避難場所としているから,原告らは,中野区役所一帯に安全に避難する利益が個別的利益として保護されている。

 そうだとすると,都市計画法の趣旨からすれば,原告らは,都市計画法に基づく中野中央公園の都市計画決定を争って保護されうる。

(2) 本件都市計画決定の違法を確認することで紛争を解決できること

 広域避難場所の中核である中野中央公園の面積を1.5ヘクタールとする都市計画公園の都市計画決定が,4ヘクタールの公園の都市計画決定を規定する中野区みどりの基本計画に違反し,違法であることの確認がなされた場合,行政事件訴訟法41条1項,33条1項によれば,都市計画決定を行った行政庁たる中野区は,その判断に拘束されることになる。

 そうだとすれば,本件都市計画決定自体の違法が確認されれば,中野区は,本件都市計画決定を変更し,中野中央公園の面積を中野区みどりの基本計画に適合した面積に改めることになる。

 そして,原告らにとって,中野中央公園の面積が4ヘクタールに変更されれば,少なくとも1人当たりの有効避難面積1㎡を恒久的に確保できることになり,最低限の避難の安全性を図ることができることになる。

 したがって,原告らは,中野中央公園の都市計画決定の違法を確認の対象とすることで紛争解決を図ることができるものというべきである。

 この帰結は,東京地方裁判所平成20年5月29日判決が,震災時に広域避難場所を利用することが予定されている住民について土地区画整理事業の施行認可取消を争う法律上の利益(原告適格)を認めていることからも支持される。

4 まとめ

 以上,①原告らは,他に適切な訴訟手段がなく(補充性),②避難について現に不安が生じており(紛争の成熟性),③本件都市計画決定の違法を確認することで紛争解決を図れること(対象の適格性)から,原告らには,確認の利益がある。

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