平成21年(行ウ)第253号 都市計画地区計画決定取消請求事件
原告 A 外2名
被告 東京都
2009年8月4日
東京地方裁判所民事3部B係 御中
原告ら訴訟代理人
弁 護 士 日置 雅晴
同 富田 裕
同 花澤 俊之
準備書面(1)
2009年7月16日付訴状について,以下を追完する。
第1 確認を求める原告らと被告との間の法律関係の具体的内容
被告は東京都市計画地区計画(東京都告示第954号。以下,「本件変更地区計画」という。)を都市計画決定し,本件変更地区計画は,「周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」(都市計画法第13条第1項14号ロ)を要請するところ,原告らは,「周辺の低層住宅」の所有者・居住者であり,本件変更地区計画によって,「良好な住居の環境」が侵害されるという法律関係にある。以下,詳述する。
1 被告の都市計画では周辺居住者の「良好な住居の環境の保護」が求められていること
被告東京都は,2009年6月22日付けで,本件変更地区計画を都市計画決定した。
その都市計画決定の内容には,訴状別紙2に記載されるとおり,再開発等促進区の定めがなされている。
そして,再開発等促進区に関する都市計画法第13条第1項14号ロによると,再開発等促進区を定める地区計画を定める場合は,「第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域については,再開発等促進区の周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」と規定されている。
この規定の趣旨は,再開発等促進区を定める地区計画が定められる場合,容積率緩和による土地の高度利用,建物の高層化等により,周辺の低層住宅の良好な住居の環境が害される畏れがあるので,地区計画対象地周辺の低層住宅を所有・居住する者に対して,「良好な住居環境」の利益を保護する必要性を定めたものと考えられる。
そこで,保護が要請される「良好な住居環境」の内容が問題となる。
2 周辺居住者に保護される「良好な住居の環境」の具体的内容
周辺居住者に保護される良好な住居環境の利益の具体的内容として,以下のものが考えられ,これらの利益は,原告らの人格権として保障される。
(1)居宅の日照・通風が阻害されない利益は,快適で健康な生活に必要な生活利益として法律上保護されるべき利益である(最高裁1972年6月27日第三
小法廷判決・民集26巻5号1067頁)とされている。
(2)また,隣地の建造物から圧迫を受けない利益についても,法律上保護されるべき利益であるとされている(神戸地裁姫路支部1999年10月26日決定・判タ1038号291頁)。
(3)さらに,大阪高裁2003年10月28日判決・判例集未登載によれば,「個人がその居住する居宅の内外において良好な風環境等の利益を享受することは、安全かつ平穏な日常生活を送るために不可欠なものであり、法的に保護される人格的利益として十分に尊重されなければならない。」とされている。
(4)加えて,静穏な生活を送る利益や,隣地の火災から生命・身体・財産が守られる利益が,法律上保護されるべき利益であることは言を待たない。
3 本件訴訟の原告らは「良好な住居の環境」の保護を受けること
原告らは,東京都市計画地区計画対象地(以下,「本件対象地」という。)の隣地に居住する者であり,しかも,第一種低層住居専用地域に居住する者である。
そうだとすると,原告らは,都市計画法第13条第1項14号ロの「第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域」における「再開発等促進区の周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境」の保護を受ける者に明確に該当している。
したがって,前記2記載のとおり,原告らの居宅の日照・通風が阻害されない利益,隣地の建造物から圧迫を受けない利益,良好な風環境等の利益および隣地の火災から生命・身体・財産が守られる利益は保護されなければならない。
4 被告の変更地区計画により,原告らの「良好な住居の環境」が侵害されること
(1) 侵害の確実性について
2009年7月16日付訴状で述べたとおり,本件変更地区計画は,建造物の高さや容積率の制限や壁面位置の制限等が具体的になされており,建設予定の建造物がこれらの制限以下に自主規制するとは全く考えがたい以上,本件変更地区計画に記載される建物の高さ,容積率,壁面位置等の数字が,近い将来建設される建物の高さ,容積率,壁面位置等の数字と一致すると考えられる。
さらに,本件変更地区計画においては, 建物の位置,幅,奥行き,高さ等についても既に具体的に定まっている。
したがって,開発許可ないし建築確認を待つまでもなく,本件変更地区計画決定段階において,原告ら周辺居住者の人格権に対する具体的な侵害が確実に想定できる。
(2) 原告らの諸利益の具体的な侵害可能性について
ア 日照が阻害されることは,訴状において既に述べた。
イ また,原告らの居住地の隣地に建設される予定の建造物は,いずれも50メートルを超えることが予定されており(訴状別紙3参照),特に原告Aと原告Bの居宅は,訴状別紙2記載の区域1-1と区域1-2の間であって風の通り道にあたり,強風等風害が発生するおそれが高い。そしてそれ故,隣地で火災が発生した場合は,直接延焼の可能性が極めて高い。
一方,原告Cの居宅は,風の通り道でないから通風が阻害されるおそれが高い。
ウ 原告らの居住地は,第一種低層住居専用地域であって高さが10メートルに制限されており,隣地の建造物(低くとも50メートル)から原告らが受ける圧迫感は極めて大きい。
エ 加えて,「中野駅周辺まちづくりガイドライン2007」は,原告らの居住地と区域1との間に緩衝帯型オープンスペースの設置を計画していた(同ガイドライン45頁)。
そして,同ガイドライン43頁が,この緩衝帯型オープンスペースに関し,「杉並区に隣接する西側隣地境界付近には,適切なオープンスペースを設けるなどにより,周辺環境との調和を図るとともに,緩衝帯としての機能確保を図る。」としていることからすると,この緩衝帯型オープンスペースは,西側隣地に住む原告らの良好な住居の環境を保護するために予定されていた。
そうすると,緩衝帯型オープンスペースの設置は,都市計画法第13条第1項14号ロの規定する「再開発等促進区の周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護」の具体化であったということができる。
原告らは,この緩衝帯型オープンスペースの設置により,日照,風環境,圧迫感の緩和,静穏に生活する利益等をかろうじて保持することができるはずであった。
しかしながら,本件変更地区計画では,原告ら,周辺住民の意思を問うことなくこの緩衝帯型オープンスペースの設置がとりやめとされた。
これは,原告ら周辺住民の日照,圧迫感,風環境,静穏に生活する利益を侵害するものである。
オ 以上より,被告による本件変更地区計画によって,原告らは,日照阻害,風害,圧迫感といった人格権を侵害されることになる。
5 原告らの「良好な住居の環境」の侵害は,「良好な住居の環境の保護に支障がないように定める」(都市計画法第13条第1項14号ロ)に反すること
前記4で述べたように,被告による本件変更地区計画によって,原告らは,日照阻害,風害,圧迫感といった人格権侵害を受けることになる。
都市計画法第13条第1項14号ロは,「良好な住居の環境の保護」を規定するが,「良好な住居の環境の保護」とは,日照・通風が阻害されない利益,隣地の建造物から圧迫を受けない利益,良好な風環境等の利益,静穏な生活を送る利益等の保護をいう。
そうすると,被告による本件変更地区計画によって,原告らが,日照阻害,風害,圧迫感といった人格権侵害を受けることは,「周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」(都市計画法第13条第1項14号ロ)に反することとなる。
第2 結論
以上より,被告は本件変更地区計画を都市計画決定し,本件変更地区計画は,「周辺の低層住宅に係る良好な住居の環境の保護に支障がないように定めること」(都市計画法第13条第1項14号ロ)を要請するところ,原告らは,「周辺の低層住宅」の所有者・居住者であり,本件変更地区計画によって,「良好な住居の環境」が侵害されるという法律関係にある。
以上
2009年12月6日日曜日
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